て・そ・ら


 大して広くない屋上で、その時、ドアが音をたてて開くのに気がついた。

 慌てて振り返ってドアを見詰める。え、まさか今日も理科部が実験するとか?そう思って、また更に気分が凹みそうになったところで、あたしは目を見開いた。

「あ、やっぱりいた」

 そう言って屋上に出てきたのが横内だからだった。

「―――――――え!?」

 出た声は小さかった。だけど驚いたことは彼には伝わったらしい。苦笑したような顔で、大きな鞄をもってこちらへ近づいてい来る。

「夕焼けウォッチ?俺も今日天気がいいから、また凄いのが見れるかなって思って」

「・・・あー・・・はい」

 制服の上にコートをきて、彼もマフラーでぐるぐるまきになっている。相変わらず大きな鞄だったけど、ラケットケースが見当たらなかった。

「ええと・・・今日、部活は?」

 あたしはポケットの中で拳をにぎりしめて聞いた。その時、あ、と思った。

 ・・・・横内、背が伸びてる。

 前はもうちょっと下で会っていた視線が、今は見上げる形になってるって気がついたのだ。

 うわあ~・・・。

 よいしょ、と鞄を床において、ほどほどの距離を開けて止まった横内が風景を眺めながら言った。

「顧問の急用やら部員のインフルエンザが重なって休み。しかし寒いな~ここ!」

 そうなんだ。あたしはつい嬉しくなって笑顔になる。わーい、ラッキーだ。クラブが休みになったのに、ここに来てくれるとは!



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