て・そ・ら
あたしは散らばったプリントを集めていた場面を思い出す。きっとそうなんだろうな。衝突の衝撃でぶっ飛んだときに落ちて、気がつかなかったんだろう。
「ありがとう。気がついてなかった」
あたしに香り袋を渡したあとはさっさと両手をポケットに突っ込んで、横内が少しだけ頷いた。
・・・・・何か、気詰まりだ。
二人とも横に並んで、微妙な距離感で微妙に押し黙ったまま電車に揺られていた。こんな時、優実だったら会話も弾ませることが出来るんだろうな、と考えてちょっと凹む。
あたし・・・経験値が低すぎるよ。
それでもバレない程度に深呼吸をして、気になったことをたずねてみる。
「席、隣なんだからさ。言ってくれたらよかったのに。ずっと持ってたの?」
恥かしいけどちらりとは横内を見た。だって独り言だと思われてスルーされてしまったら、余計恥かしいではないか。あたしはあんたと話してるんだよ~って強調だ。
やつも、ちょっとだけ視線をこっちに寄越した。
それからまた小声でぼそぼそと言う。
「・・・いや、俺、寝ちゃうから・・・。何度か話そうと思ったけど、眠くて。授業始まってから、とか思ったらもう寝てて」
うん、どうやら君は眠りん坊とあだ名があるらしいしね。
あたしは口には出さずに一人で頷く。
「さっき、隣の車両から気がついて。一人になったみたいだったから、来たんだ」
うお!ってことは結構前から見られていたのだろうか。ちょっとちょっと、あたし変顔とかしてなかったっけ?