て・そ・ら
言葉と同時にドアがあいた。何人かの乗客が降りるのと同時に、秋の初めの夜の風が吹き込んでくる。ふわりとあたしの髪を揺らした風を突っ切って、横内の背中が目の前を通り過ぎた。
「じゃあ、俺ここで」
横内がそういって、降りて行った。
「あ、うん。また明日―――――――」
横内は振り返らなかった。制服の背中と大きな鞄が揺れて、あたしの視界から消えていく。
・・・声、聞こえなかったかな・・・。
音をたててガラス戸がしまった。車内アナウンスと共に、まだ電車が動き出す。
あたしはその窓ガラスにうつる自分の赤面した顔をみて、ぎょっとした。
「う!」
ちょっとちょっと!真っ赤だよ、もう~!!自分の顔を両手で思いっきり挟み込んだ。
普通のこと。落し物を届けてくれたクラスメイト、それだけのこと。別に何のハプニングでもない、いたって普通のこと。
・・・だけど。
心臓が、ちょっとうるさいみたいだ。
さっき引っ張られた腕が。
まだ掴まれているみたいに、横内の手の強さを感じていた。
・・・今日は夕暮れを見逃したけど、その変わりに――――――――――――
あたしの体が、全身まるごと茜空だ・・・・
あたしはそれから、上気した頬を窓ガラスに引っ付けて冷ましたい欲望と暫く戦うはめになった。