て・そ・ら
2、空色の魔法
・授業中の助け舟
一行日記には、確実に横内の名前が増えていた。
例えばこんなの。
『9月25日。今日もYとは一言だって喋ってない』
『9月26日。Yは歴史の授業でまた寝ていて、今日は出席簿で叩かれてた』
『9月29日。どうやらYはお弁当を朝の内に食べてしまって、昼は購買に行っているらしい。どれだけ食べるんだ』
とか。横内って文字を書くのはどうだかなあ!と思って、Yと書くあたりあたしも小心者だよね。
とにかく、香り袋を届けてくれたあの夕方から、あたしと横内がいきなり仲の良いクラスメイトになった・・・ことなんてない。
ほら、やっぱり現実ってそういうもんなんだなあ、とあたしはあまりにも退屈な物理の授業中に考えていた。
漫画やドラマなら、ここでぐぐっと距離が近づいてってことになるんじゃないの?と思う展開でも、片方が冴えない女子で、片方がいつでもどこでも寝ている男子だった場合、そういう方向には進まないらしい。
相変わらずヤツは隣の席で眠りこけているし、あたし達は別に朝や夕方に挨拶をしあうわけではなかった。一応目があったら「あ」と思うくらいの距離になった、という感じ。
以前みたいに頭の片隅にも残らないって感じではなくて、実際はそれだけであたしを十分わたわたさせてるんだけど、頑張って平静を装っている。
十分にわたわた、それでは足りないかもしれない。
本当は、すごく気になっていた。すご~く、気になっているのだ!だってあんなにくっついた男子は初めてだし、それにそれに腕を掴まれたあの感じとか。