て・そ・ら
揺れる電車の衝撃から守ってくれた、なんて大げさに思ったりはしていない。だけど頭の中での妄想や思考の暴走は止まらなくて、あたしは近頃隣のクラスメイトの寝顔をこっそりと見ては一人で百面相をしている始末。
あ、睫毛長いんだな、でニヤニヤ。
あ~、先生こっち見てるよ、起こすべき?でハラハラ。
・・・寝言、言ってる。何の夢みてんだろ。で、ドキドキ。
過剰な自意識が邪魔をして、普通に話しかけることが出来ないのだった。
だって、何がどうなるっていうのさ?
前まで一言も話さなかった女子がいきなりおはようとか言い出したら、横内だってビックリするよね?そこでおはようって返してくれなかったら、きっとまたあたしは自己嫌悪に陥るに違いないし。
ううう、これが青春ってやつか!
欠伸が出た。
ああ、それにしても眠い・・・。
横内でなくても眠くなる5限目、どうして何を言ってもお経にしか聞こえない物理の緒方先生なのだろうか。この時間割り、酷い。
見回してみてもクラスの半分くらいが座ったままで目を開けて寝てるんじゃないだろうかと思う。
まあ、隣の誰かさんみたいに堂々と寝ている人はいないけれども!
もう明日から10月だって頃、寝てはならない昼下がりの退屈な授業ほど、妄想力を掻き立てる時間はない。
そんなわけで、あたしは肘をついて顎を押さえ、暇にまかせてノートに落書きをする。それは今描いている紅葉だ。その形。シャーペンでサラサラと白いノートの端っこに書き込んでいく。