て・そ・ら
息を整えながら一応聞いてみると、彼は悪戯が成功した子供のような笑顔のままでさあな、と返してきた。
「ま、何とかなるって。下に逃げたら部活行かなきゃだし、上だって思ったけど、屋上は正解だったなー」
「え?」
聞き返したあたしに、ほら、と彼は指をさす。
その指に従って振り返ったあたしは、つい、呼吸を忘れた。
そこには暮れ行く広大な空と、はるか下に広がる街の風景があったのだ。
今日も大陸棚のような大きな雲がいたるところにあり、もう最後の、弱弱しい太陽の残した光が地平線に鈍く光っていた。
雲の内側は群青に染まり、端の方にはまだピンクや紫色が残って揺らめいている。
いつもの強烈な夕日が終わったあとの、これから夜が降りてくる前の、空に一番たくさんの色が共存する瞬間だったのだ。
「わあ・・・」
あたしは呟いて、体の向きを変える。
わあ、凄い・・・。本当に色んな色が散らばっては光っている。
「すげーよな、ここからの眺めはマジで」
あたしの隣まで来て、横内がそういった。あたしは空から目が離せずにただ頷く。
「・・・綺麗。凄いたくさんの色」
「うん」
もうあと2,3分でこの色彩世界は終わってしまうのだろう。それがよく判ったから、あたし達はお喋りもせずにただ素晴らしい夕暮れを見詰めていた。
すうっと地平線に吸い込まれるように、最後のピンクが消えていく。
雲が更に大きくなってきて、夜の世界を覆ってしまいそうだった。