て・そ・ら
薄暗くなった階段を降りながら、横内が前でぐぐっと腕を上げて体を伸ばしている。
「あー・・・もうほとんど意味ないけど、仕方ないからちょっと顔出すかな」
あたしは驚いてつい聞いてしまう。
「え?今から部活いくの?だってもう5時過ぎてるよ?」
振り返った横内は、優しい笑顔だった。それをばっちり見てしまってまた鼓動がなりだす。うわあ・・・ちょっと、今かなり緊張しちゃってるよ・・・。何何何、何でいきなりそんな顔してみるのよ~。
もう心臓がバクバクだ。
にこっと笑ったままで、横内がだってさ、と話し出した。
「クラスの練習でって遅れる理由出してるのに、結局行きませんでしたーは通らないだろ?顧問だけでも会ってこないと。行ったけど遅かったってことにしねーとさ」
「あ、そうなのか」
ちょっとがっかりした。だってこのまま電車まで一緒に帰れるのじゃあないかって期待していたから。
静まり返った校舎の中を、音をたてる上靴が4つ。校舎の中は薄暗くて電気が消されている場所も多く、もう人気がなくて誰もいないかのようだった。こんな時はいつでも「学校の怪談」を思い出してしまうあたしだけど、今は勿論そんなことはない。
だって男子と一緒にいるのだ!このあたしが!それもそれも、気になって仕方がない子になってしまったクラスメイトと!
あたしは横内の後ろについて階段を降りながら、落ち着け落ち着けと心の中で繰り返す。
もう十分変な姿は見てしまってるけど、それでも別れ際くらいはちょっとでも可愛い顔でバイバイしたい。