て・そ・ら
だから、靴箱では平常心で頑張りたいのだ。
顔が赤くなってませんよーに。
それからそれから、どもりませんよーに。
あ、リップクリームくらい塗りたい・・・。
一階の上履き箱の所についた時、でもさ、と急に横内が口を開いた。
「電車でも綺麗だと思うけど、もっといい場所もあるじゃないか」
え?
あたしはいきなり何だ?と思いながら彼を見る。お陰で散々ロープレした「別れ際の挨拶」が全部吹っ飛んでいってしまった。
「それも初めから人がいないって保障つきでさ」
「・・・」
「夕焼けだよ。綺麗な夕焼けを見るんだったら――――――――ウチの学校の屋上が、ベストだと思う」
―――――――――ああ!
手をポンと打ちそうになった。
「ついさっきだって、あんなすげー夕暮れみたじゃないか」
横内はそう言うと、あたしが呆然と突っ立っている間にさっさと鞄をかついで歩き出してしまう。
じゃーなー、佐伯、逃亡につき合わせてごめんなー、って言いながら。
ニコニコしていて、手を大きく振っていた。
その彼のブレザーの後姿はすぐに外の暗闇に消えてしまったけど。
あたしは結局何も言えずにそれを見送って、ぼーっとしていたために更に電車に乗り遅れたのだった。