て・そ・ら
「私だって美容院いったのよ!七海が綺麗にしなきゃ、一体母子でどういう生活を送ってるのかってお父さんに心配されちゃうじゃない~!!」
・・・しないでしょ、そんなこと。そう思ったけど、口には出さないでおいた。
確かに元々外見をよく気にする母親は、一段と迫力が増して・・・いやいや、綺麗になっている。だけどそれならそれでいいじゃん、と思うのはあたしだけらしい。
「もう絶対美容院いって~!お母さんついていくから!」
辛坊堪らんとなった母親がそう叫び、あたしはぎょっとした。
「え!?いやいやいや、結構ですぜ。行くなら一人でいけるから」
「行くのね?」
「へ?」
ぐぐっとテーブルの向こうから身を乗り出して、母親がべったりとした口調で言った。
「美容室行くんでしょ?行くって今言ったわよね?あんたが逃亡しないように見張りにいくわ」
「ええー・・・勘弁してよ、お母さん」
「しないわよ!」
ギラギラとこちらを見据えた母親は、いつもよりも数倍恐ろしい。あたしは金縛りのような状態で、カップを持ったまま固まった。
「今日中にその長いだけの髪の毛を何とかしてくること!そうしないと、あらゆる手を使って期末テストの邪魔をしてやるわ!」
なんて母親だ。普通、逆でしょ。何があってもテストのためにサポートするのが親じゃないの?
あたしは唖然とした。したけれど、ここ数年落ち着いていた母親は、元はこうと決めたらテコでも動かない性格の人だったと思い出した。