て・そ・ら
そんなわけで、強制的に、あたしは美容室へと連行されたのだ。
母親の手で。母親の行き着けの美容院へ。そこの十分におばちゃんである店長が選んだ若い美容師さんに、後から母親がアレコレと指示を出す。
あたしはその間中、もしかして今まで気がつかなかったけど、あたしは人間じゃなくて人形だったのかな、などと思っていた。だって意見も聞かれなかった。あたしの髪の毛なのに!
全て母親の指示に沿って、鋏は使われ、髪の毛は床へと散らばっていく。もう煮るなり焼くなり好きにして、状態だ。魂もぬけてしまったわ。
2時間後。
専用のシャンプーとコンディショナーでツヤツヤのサラサラになったあたしの腰まであった真っ黒な髪は、肩を少し過ぎるくらいの長さで整えられた。毛先には絶対枝毛なんてないんだろうし、髪の量もついさっきまでの3分の1に減らされたのかと思うくらいに頭が軽い。
「うーん、いいわね、ようやく清純そうな高校生に見えるわ!」
その微妙なコメントを残して、忙しい母親はお金を払いにすっとんでいく。あたしは大きな鏡にうつった自分を見て、ちょっと呆然としていた。
顔は、当たり前だけど前と全然変わらない。だけど・・・何というか、垢抜けた感じがするって。
あれ?あたし、だよね?って。
なんか可愛い子みたいになってるけど?って。
髪型一つで人の印象って劇的に変わるものなのだなあ~って、この週末であたしは学んだわけだ。外見を整えるというのは、時間もお金もかかるけれど、それでもお釣りがくるくらいに世の中を変えることが出来るものなのかも、って。
産まれて初めてといっていい勢いで、母親の外見を気にする性格に感謝をした。