花と死(前編)
言及することもなく、じっとしている。
彼もまたそう思っているのだろう。
しかし、かなわぬのだ。

それは誰もが解っている話だ。


暫くそのままでいたが、やがてヴォルフラムが離れた。
そして、半ばクラウジアに押し込められるような形で食卓に座る。
食事はスープのみ。
それさえも、辛い食事だ。
クラウジアが料理下手なわけではない。
むしろ、おいしいと思う。
ただ、固形物が喉を通り、体内に入っていくことが不快だった。
直ぐに吐き気がする。
それが申し訳ない。
だが、慣れたようにクラウジアは“もう一口、頑張れ”と背中をさする。
促されるがまま、スープを小皿の四分の一は食べた。
「少しづつでいい。私はちゃんと見ているから。」
そんな事を言う。
愛おしいほどに、馬鹿な女だとヴォルフラムは思った。
「フラン。今日は役人に頼み事をされているんだ。……言っておくが、彼奴のおかげでこうしていられるのだ。拒否は野暮だぞ。」
クラウジアにヴォルフラムは“別に、役人に頼んでない”という顔をしたが、従った。

その役人は、事件の後、その場を上手いこと纏めてくれた上に、重傷だったヴォルフラムを手厚く保護してくれたのだ。


支度を済ませた後に役所へ向かった。
目に入る光にクラウジアは目を細める。
(……つい最近までは外へ出るなんてなかったというのに。)
ずっと屋敷に籠りっきりだった日々を思って考える。
木々を見ると、死体が吊り下げられている。
古い死体から、比較的新しいものまで様々だ。
此の森はヴォルフラムの屋敷の敷地内だ。
ヴォルフラムが見回りをしていて、森の中に入った者を木につり上げて殺し、その血を吸う。
その為、誰も此処には入らない。
(フランが侵入者を狩ったりするおかげで、不便はなかった。)
それでも、変わった。
「クララー!」
そう、それは、小さな少女の呼び声。
「!」
クラウジアはその声を見た。
「どうした。シエン。」
少女を愛称で呼ぶ。
彼女はシエリア。
いつの間にか、屋敷によく来るようになった少女だ。
彼女は植物から栄養をもらう吸血鬼で、基本的には血を吸うことはない。
「あのねー、シャルドネさんがね」
「あぁ、今向かうところだ。」
「いっしょにいこー!」
役人の名前を言うシエリアの意図を把握したクラウジアは皆まで聞かずに言う。
ヴォルフラムは眉を寄せただけで異論は言わなかった。
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