Third Time Lucky
この話はこれでおしまいにしろ、そんな思いと怒りを込めて声の高さも落としてやる。

「…新鮮な意見だ。」

「素直な感想です。」

見切りをつけて早く職場に戻れと無言の圧力をかけ続ける。

伝わっているだろう、そんな感触があるのに葛西くんはまだ出ていこうとはしなかった。

「僕のこと嫌いですか。」

「試されるのが分かったから苛々したの。でもこの話をだらだら続けると葛西くんの言う様になるかもね。」

私の言葉を受けて葛西くんはわざとらしく両手を頬に当てると驚いた表情をしてみせる。

苛立ちを露わに睨むと葛西くんは咳払いを1つ聞かせて受け取った資料をかざした。

「任されます。」

「宜しく。」

男らしく短い返事をすればそのまま背を向けて事務所から出ていく。やっと1人になれた空間で私は唸り声をまぜたため息を盛大についた。

疲れる、でも社員教育や対応も仕事の1つだ。

「よし、やるぞ!」

これから年明けまで怒涛のスケジュールが私を待っている。年末年始なんてサービス業には関係ない話だ、ついでに色恋も当面私には関係のない話だ。

ちょっと、ほんのちょっとだけ壁ドンにときめかない自分に悲しくなったけど別に気にしない。

「確かにイケメンだけど、顔が近いなって思うだけで寧ろ嫌悪感だわ。」

私も皆と下らない話で盛り上がりたい。葛西くんが少し、いやかなり羨ましかったけど店長となった私にはもう出来ないことだった。

「サラリーマン川柳に応募でもしようかな。」

今ならあの人たちの気持ちがよく分かるし、きっとあの人たちにも私の気持ちが伝わる筈だ。なんだか一気に老けこむような気がするけど仲間を見つけるのも悪くないなと自分の世界に浸る。

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