雪と、キミと、私と。
誰だろう。あんな綺麗なコ、いたっけ?

翌朝の今日は、駅から電車内、会社までの道のりまで、ひとりでずっと意識していたけれどあの人が現れることはなく。
夢だったんじゃないかと頭の片隅では思いつつも、私の心臓は、一晩経っていると言うのにしっかりと反応して常にドキドキとした状態。

あれから一生懸命考えてはみたけど……。もしかして、1,2歳下かな、って思うだけでそのくらいの歳の差の男の子がさっぱり思い当たらなくて。

「……岡さーん。廣岡さーん……早雪ちゃん!」
「えっ」

休憩中だった私は、「早雪ちゃん」と呼ばれた拍子に勢いよく振り返る。

……こんなとこに、あの人がいるはずないのに。
振り向いた先にいた須藤くんが目を丸くして私をみてる。

「……誰かと勘違いした、とか?」
「え?い、いや……そうじゃなくて。あ、須藤くん来たってことはもう戻らなきゃ!」

図星をつかれた私はごまかすようにその場を立つと、グッと手首を掴まれた。
硬直した私に、真面目な顔をした須藤くんがゆらりと一歩私に近づく。

「廣岡さんって……彼氏いる?」
「あっ……ご、ごめんなさい……!」

詰め寄られた距離感がものすごく怖くて、思わず手を振り払って休憩室を飛び出した。

その勢いで売り場に出たものの、ドクドクと打つ心音はおさまりそうもない。
でも、ここは売り場だし。休憩も終わったし、ちゃんとしなきゃ。
平静を装うように、涼しい顔で店内を歩き進める。

だけどどうにもさっきの驚きがおさまらない。
手先も冷たい。これは冬のせいなんかじゃない。

自分のテリトリーに踏み込まれた瞬間、一気に拒絶反応が起きてしまった。
別に須藤くんが嫌いとかじゃない。でも、そういう対象じゃないんだって体が示した。
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