きみと駆けるアイディールワールド―赤呪の章、セーブポイントから―
□“呪い”のチカラ
うっそうとした木々が、途切れた。ぽっかりと開けた広場。広場の周囲には、黄金色のタケが茂っている。
広場の中心に、一本の巨大なタケが、立っている。タケの内側から、黄金色の光がにじんでいる。
アタシは進み出て、先頭だったニコルに並んだ。
「どうやらここがオヘの住み処のようね」
ニコルはフキの葉から飛び下りた。フキの葉は、ひょこひょこと走って森へ帰っていく。ラフはアタシとニコルの間に立って、さらに一歩、先へ踏み出した。
ザワザワと、広場を囲むタケが一斉に葉を揺すり始めた。風はない。
中央のタケが黄金色の光を明滅させた。明滅は、心臓の鼓動みたいなリズムだ。どくん、どくん。だんだん光が強くなっていく。
「オヘって、タケの中から現れるのね? かぐや姫?」
ニコルが知識を披露した。
「タケの中に人が住むっていう発想は、太平洋の島々の伝説らしいよ。かぐや姫伝説も、そのうちのひとつ。もともと南洋から入ったんじゃないかって説があるんだ」
「変なこと知ってるのね」
「趣味だよ。伝説や神話、好きなんだ」
黄金色のタケの茎に、スッと亀裂が走った。亀裂はねじ曲がって、左右に広がる。
「おっ、出てくるぜ」
黄金色の女がタケの中から現れた。女は長い脚で、苔むした地面に降り立つ。女の背後で、タケの茎が元通りに閉ざされた。
「招いた記憶はないけれど、お客さまかしら?」
タケそのものみたいな、硬そうな肌。黄金色の全身は、ボディスーツでも着てるような印象。裸なんだけど、裸っぽくない。スタイルはすごくいい。
ラフは、コンピュータ制御のその女にウインクしてみせた。
「アンタがオヘかい、グラマラスなおねえさん?」
アタシはラフの束ね髪をぐいっと引っ張った。
「敵キャラまでナンパしてんじゃないわよ」
「痛てて、マジでダメージ入ってる! ボス戦の前にそれはやめてくれ!」
「ふんっ」
タケの色をした女は、眼球のない目でアタシたちを順繰りに見た。
「ワタクシの名はオヘ。アナタたちが何者かは知らないけれど、アナタたちからは敵意を感じる。去りなさい」
「ずいぶん高飛車なかぐや姫ね」
オヘは色っぽい感じに笑って、プログラムされたセリフを吐いた。
「ヒイアカが結婚? おめでとうと伝えてちょうだい。でも、ホクラニは返さないわよ。ワタクシにも幸せになる権利はあるはずだもの。ワタクシは誰よりも美しくなって、あのかたを振り向かせるの」
ニコルは眉をハの字に開いて、困った顔をした。
「こういう流れじゃあ、やっぱりこの人自身がボスだよね」
オヘは腰に手を当てた。
「あら、見逃してあげようと思ったのに、帰らないのね。ホクラニを返せって? だったら、力ずくで奪ってみなさい!」
タケの小枝のような髪が、ミシミシと音を立てて逆立った。オヘの胸が淡く発光している。
「あの光がホクラニか。戦神《クー》の星、だっけ?」
オヘの胸の谷間の奥に輝きが埋まっている。冴え冴えとした、透明な光だ。風圧を放つほどの魔力。剣の間合いより遠い地点に立っていても、その風が感じられる。
バトル開始のカウントダウンが表示された。アタシは剣を抜き放った。隣でラフが双剣を構える。
3・2・1・Fight!
広場の中心に、一本の巨大なタケが、立っている。タケの内側から、黄金色の光がにじんでいる。
アタシは進み出て、先頭だったニコルに並んだ。
「どうやらここがオヘの住み処のようね」
ニコルはフキの葉から飛び下りた。フキの葉は、ひょこひょこと走って森へ帰っていく。ラフはアタシとニコルの間に立って、さらに一歩、先へ踏み出した。
ザワザワと、広場を囲むタケが一斉に葉を揺すり始めた。風はない。
中央のタケが黄金色の光を明滅させた。明滅は、心臓の鼓動みたいなリズムだ。どくん、どくん。だんだん光が強くなっていく。
「オヘって、タケの中から現れるのね? かぐや姫?」
ニコルが知識を披露した。
「タケの中に人が住むっていう発想は、太平洋の島々の伝説らしいよ。かぐや姫伝説も、そのうちのひとつ。もともと南洋から入ったんじゃないかって説があるんだ」
「変なこと知ってるのね」
「趣味だよ。伝説や神話、好きなんだ」
黄金色のタケの茎に、スッと亀裂が走った。亀裂はねじ曲がって、左右に広がる。
「おっ、出てくるぜ」
黄金色の女がタケの中から現れた。女は長い脚で、苔むした地面に降り立つ。女の背後で、タケの茎が元通りに閉ざされた。
「招いた記憶はないけれど、お客さまかしら?」
タケそのものみたいな、硬そうな肌。黄金色の全身は、ボディスーツでも着てるような印象。裸なんだけど、裸っぽくない。スタイルはすごくいい。
ラフは、コンピュータ制御のその女にウインクしてみせた。
「アンタがオヘかい、グラマラスなおねえさん?」
アタシはラフの束ね髪をぐいっと引っ張った。
「敵キャラまでナンパしてんじゃないわよ」
「痛てて、マジでダメージ入ってる! ボス戦の前にそれはやめてくれ!」
「ふんっ」
タケの色をした女は、眼球のない目でアタシたちを順繰りに見た。
「ワタクシの名はオヘ。アナタたちが何者かは知らないけれど、アナタたちからは敵意を感じる。去りなさい」
「ずいぶん高飛車なかぐや姫ね」
オヘは色っぽい感じに笑って、プログラムされたセリフを吐いた。
「ヒイアカが結婚? おめでとうと伝えてちょうだい。でも、ホクラニは返さないわよ。ワタクシにも幸せになる権利はあるはずだもの。ワタクシは誰よりも美しくなって、あのかたを振り向かせるの」
ニコルは眉をハの字に開いて、困った顔をした。
「こういう流れじゃあ、やっぱりこの人自身がボスだよね」
オヘは腰に手を当てた。
「あら、見逃してあげようと思ったのに、帰らないのね。ホクラニを返せって? だったら、力ずくで奪ってみなさい!」
タケの小枝のような髪が、ミシミシと音を立てて逆立った。オヘの胸が淡く発光している。
「あの光がホクラニか。戦神《クー》の星、だっけ?」
オヘの胸の谷間の奥に輝きが埋まっている。冴え冴えとした、透明な光だ。風圧を放つほどの魔力。剣の間合いより遠い地点に立っていても、その風が感じられる。
バトル開始のカウントダウンが表示された。アタシは剣を抜き放った。隣でラフが双剣を構える。
3・2・1・Fight!