きみと駆けるアイディールワールド―赤呪の章、セーブポイントから―
 鈍い金属質の輝きが、足のほうから頭のほうへ、人の輪郭を形づくる。
「戦士タイプ?」
 アバターに色彩が定着する。
 スラリと引き締まった体つきの男だ。襟足でくくられた長い黒髪。肩と胸を覆うシルバーメイル。むき出しのお腹には、形よく割れた筋肉。背中には、交差に装着された二本の大剣。
「メイルの内側の赤黒い紋様は、イレズミ? ちょっと趣味悪いわね。でも、ピアズのキャラデザって、やっぱ整ってる」
 双剣の戦士は目を閉じている。浅黒い肌と右頬の一文字傷が野生的。顔立ちは、端正だ。繊細っていえるくらい、キレイ。
 このアバター、アタシと同じで、ユーザ自身の3D投射で作ってあったりして。だったら、実物はけっこうな美形だ。
 男のくせに長いまつげを震わせて、彼はまぶたを開いた。
「お、美少女発見! お姫さま、お名前は?」
 発声の感じからして、人工音声ではないみたい。たぶん、ユーザ本人の肉声だ。姿も声も悪くないけど、チャラいセリフに興醒めしてしまう。
「人の名前を尋ねる前に、自分が名乗りなさいよ」
「こいつは失礼。はい、オレの名前」
 ぴろりん、と効果音。双剣の戦士は、パラメータボックスを開示した。

  name : Laugh-Maker(♂)
  class : highest
  peer : Nicol

「ラフ・メイカーっていうの?」
「ああ。ラフって呼んでくれ。んで、こっちがオレの相方」
 もう一人、アバターが浮かび上がってくる。
 魔術師らしい緑色のローブをまとった子どもだ。年齢は、設定可能な下限である十二歳にしてあるんだろう。
 銀色の髪はサラサラのおかっぱ。緑色の目はこぼれ落ちそうに大きい。ピンク色のほっぺたがかわいらしい顔つき。男の子なのか女の子なのか、パッと見にはわからない。
「初めまして! ボク、ニコルです」
 コンピュータ合成の子ども声も、やっぱり性別不詳。ただ、そいつのパラメータボックスに答えが書いてあった。

  name : Nicol(♂)
  class : highest
  peer : Laugh-Maker

「ボクっ娘かと思ったら、普通に男の子なのね」
「そうだよ。よく勘違いされるんだけどね。で、おねえさんのお名前は?」
「呑気に自己紹介なんかしてる場合じゃないわよ。面倒くさそうなやつが迫ってきてるの」
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