きみと駆けるアイディールワールド―赤呪の章、セーブポイントから―
■安心感
ネコがいる。黒い毛並みの、キレイなネコ。こっちへ近寄ってきて、まん丸い目であたしを見上げる。
ほら、おいで。おやつをあげるから。
あたしは、家の冷蔵庫から持ち出したソーセージを、ぽいと足下に落とす。
ネコのピンク色をした鼻がピクリと動いた。足音をたてずに、あたしの足下までやって来る。
いい子ね。すなおで、いい子。そして、とってもバカな子。
ソーセージにかぶりつくネコを、あたしは真上から押さえつける。
ネコが暴れた。かわいい抵抗。これで全力なの? なんて弱いんだろう。
左手でネコを押さえて、右手でナイフを構える。予備のナイフはたくさんあるの。だって、たくさんやってみたいんだもの。
くくっ。
うふふ。
あはははは!
はははははははははははははははは!!
「きゃああああああああああああっ!!」
悲鳴が、耳に刺さった。
息が苦しい。心臓が苦しい。ココロが苦しい。
ドンドン! ドンドンドンッ!
ドアを叩く音がする。
「おい、麗っ? 麗、どうしたっ?」
部屋のドアを外側から叩きながら、おにいちゃんがあたしを呼ぶ。
「……お、おにいちゃん……」
助けて。夢を見た。怖い夢を。
「麗、入るぞ? いいか?」
そっと、ドアが開かれた。廊下の明かりを背景に、おにいちゃんのシルエット。
おにいちゃんはゆっくり部屋に入ってきた。あたしのそばに片膝をつく。
あたしは床にへたり込んでいた。ベッドから転がり落ちたんだと思う。
「どうしたんだ、麗?」
おにいちゃんは、切れ長の目を柔らかく微笑ませた。メガネをかけていない顔、久しぶりに見た。
「ゆ、夢……すっごく、イヤな夢……」
「イヤな夢? 怖い夢なのか?」
あたしはガクガクとうなずいた。
ネコを殺そうとする夢を見たの。夢の中のあたしは笑ってた。笑いながら小さな命を殺してしまえる自分が、怖かった。
おにいちゃんはあたしの頭をポンポンと叩いた。大きな手のひらがあったかい。
「今、五時半くらいだよ。起き出してもいいし、二度寝してもいい。どうする? 起きる?」
「起きる……」
ベッドに戻ったら、あの夢の続きに襲われるような気がする。
おにいちゃんは立ち上がった。
「キッチンにおいで。ハチミツ入りのホットミルクでいいかな?」
「うん」
おにいちゃんが部屋を出て行こうとした。あたしは慌てて立ち上がった。左手でおにいちゃんのパジャマのそでをつかんで、右手の親指に噛みつく。
おにいちゃんはあたしの顔をのぞき込んで、にっこりした。
あたしがもっと子どもだったらよかったのに。ほんとはね、おにいちゃん。思いっきり、抱きつきたい。もっと頭をなでてほしい。
ほら、おいで。おやつをあげるから。
あたしは、家の冷蔵庫から持ち出したソーセージを、ぽいと足下に落とす。
ネコのピンク色をした鼻がピクリと動いた。足音をたてずに、あたしの足下までやって来る。
いい子ね。すなおで、いい子。そして、とってもバカな子。
ソーセージにかぶりつくネコを、あたしは真上から押さえつける。
ネコが暴れた。かわいい抵抗。これで全力なの? なんて弱いんだろう。
左手でネコを押さえて、右手でナイフを構える。予備のナイフはたくさんあるの。だって、たくさんやってみたいんだもの。
くくっ。
うふふ。
あはははは!
はははははははははははははははは!!
「きゃああああああああああああっ!!」
悲鳴が、耳に刺さった。
息が苦しい。心臓が苦しい。ココロが苦しい。
ドンドン! ドンドンドンッ!
ドアを叩く音がする。
「おい、麗っ? 麗、どうしたっ?」
部屋のドアを外側から叩きながら、おにいちゃんがあたしを呼ぶ。
「……お、おにいちゃん……」
助けて。夢を見た。怖い夢を。
「麗、入るぞ? いいか?」
そっと、ドアが開かれた。廊下の明かりを背景に、おにいちゃんのシルエット。
おにいちゃんはゆっくり部屋に入ってきた。あたしのそばに片膝をつく。
あたしは床にへたり込んでいた。ベッドから転がり落ちたんだと思う。
「どうしたんだ、麗?」
おにいちゃんは、切れ長の目を柔らかく微笑ませた。メガネをかけていない顔、久しぶりに見た。
「ゆ、夢……すっごく、イヤな夢……」
「イヤな夢? 怖い夢なのか?」
あたしはガクガクとうなずいた。
ネコを殺そうとする夢を見たの。夢の中のあたしは笑ってた。笑いながら小さな命を殺してしまえる自分が、怖かった。
おにいちゃんはあたしの頭をポンポンと叩いた。大きな手のひらがあったかい。
「今、五時半くらいだよ。起き出してもいいし、二度寝してもいい。どうする? 起きる?」
「起きる……」
ベッドに戻ったら、あの夢の続きに襲われるような気がする。
おにいちゃんは立ち上がった。
「キッチンにおいで。ハチミツ入りのホットミルクでいいかな?」
「うん」
おにいちゃんが部屋を出て行こうとした。あたしは慌てて立ち上がった。左手でおにいちゃんのパジャマのそでをつかんで、右手の親指に噛みつく。
おにいちゃんはあたしの顔をのぞき込んで、にっこりした。
あたしがもっと子どもだったらよかったのに。ほんとはね、おにいちゃん。思いっきり、抱きつきたい。もっと頭をなでてほしい。