きみと駆けるアイディールワールド―赤呪の章、セーブポイントから―
□神代の終わり
カイの槍は、クーナと数回打ち合っただけで折れてしまった。クーナの当て身に、カイは吹っ飛ばされる。
ラフがクーナに突進する。
「くらえっ!」
全身で横向きに旋回しながら、斬撃。
“stunna”
クーナは長槍を振るった。変幻自在な軌道。ラフの双剣が巻き上げられて、弾き飛ばされる。
「マジかよ!」
隙のできたラフの側面に、クーナの蹴りが叩き込まれる。寸前、ラフが防御をとった。ダメージは深くない。
「ラフ、援護入るよ!」
ニコルはツタの鞭を繰り出した。ツタの鞭がクーナの左腕をからめ取る。
クーナは冷たい目でニコルを見下ろした。腕を引く。ニコルの体が引きずられる。
「あらら? 最大まで重量アップしてるのに、この重さでも動かせるの? そのキャラデザで馬鹿力とか、やめてよぉ」
カイは、折れた槍でクーナに打ちかかった。クーナは片腕だけで、無造作に長槍を操った。カイが肩口に大ダメージを受ける。戦闘不能が表示される。
ニコルはクーナの左腕を封じるので精一杯。二度、三度と、ラフが攻撃する。
ラフの攻撃は、大剣に体重を乗せて繰り出される。一撃一撃が重い。それなのに、クーナには余裕がある。右腕だけで長槍を繰り出して、ラフの攻撃を受け流す。
「ひっでーな、このバトル。お姫さまが入れねえ上に、このウナギ、強すぎんだろ」
「ここにヒナの補助魔法が入ってたら、ヤバかったね。何か攻略法はあると思うんだけど」
「動きは速いわ、皮膚はぬめるわ、厄介だな」
「一般論で言えば、ウナギは目打ちしてさばくんだけど。そうそう、軍手が必須だね」
ラフとニコルには、クーナの姿は、やっぱりウナギにしか見えないんだ。
ヒナの悲痛な叫びが洞穴に響き渡る。
「やめて、やめてくださいっ!」
クーナは、ニコルのツタに囚われたヒナを見た。にっこりする。青い肌をした、キレイな男の姿で。
「案ずるな、ヒナ。ふさわしい結末が用意されているから」
ラフがクーナから間合いをとった。
「気取ったセリフ吐いてんじゃねえよ。ウナギの化け物のくせして」
ニコルが口を挟む。
「あのねー、ラフ。南太平洋の伝説や神話では、ウナギ、よく出てくるんだよ。ウミヘビとかヘビで語られることもあるけど、ヘビがいない島ではウナギのほうが一般的みたいで」
「だあぁっ、もう! 今はそんな豆知識、どーでもいいだろ! ってか、さっさと片付けねえと、タイムオーバーになるぜ」
「そういえばそうかも。今日はボス戦まで行くつもりなかったのに、カイの暴走に引きずられちゃったから、四時間制限のタイムリミットが近いんだよね」
ラフが、だらりと両腕を垂らした。
「じゃ、まあ、仕方ねえか。さっさと終わらすには、これがいちばんだよな」
アタシはハッとする。
「待って!」
「どうして?」
「使ってほしくない」
「しゃーないだろ? お姫さまはそこから動けないんだし」
ラフの黒髪がザワリと波打った。ブーツの足下から不穏な風が湧き立つ。
ミシリ。
一瞬、ステージそのものが軋んだ。稲光が走ったように見えた。
画像の乱れ? 胸騒ぎがする。
「なによ、今のは?」
ラフがざらついた声で答えた。
「オレの存在がフィールドのCGに干渉シたンだ。バグだかラさぁ……オレのスキル。呪いって、本当ハこノ世界で承認サレチゃイケネェんだヨ」
ラフは目を閉じた。
ミシリ。
ステージのCGが再び軋んだ。バトルのBGMが流れを止めた。クーナやヒナやカイが数秒、フリーズする。
これって、本格的にヤバいんじゃないの?
ラフが身じろぎする。稲妻みたいな白い光が無数に走る。ザラザラとした雑音が聞こえる。AIキャラたちの動きが飛び飛びになる。
ラフがクーナに突進する。
「くらえっ!」
全身で横向きに旋回しながら、斬撃。
“stunna”
クーナは長槍を振るった。変幻自在な軌道。ラフの双剣が巻き上げられて、弾き飛ばされる。
「マジかよ!」
隙のできたラフの側面に、クーナの蹴りが叩き込まれる。寸前、ラフが防御をとった。ダメージは深くない。
「ラフ、援護入るよ!」
ニコルはツタの鞭を繰り出した。ツタの鞭がクーナの左腕をからめ取る。
クーナは冷たい目でニコルを見下ろした。腕を引く。ニコルの体が引きずられる。
「あらら? 最大まで重量アップしてるのに、この重さでも動かせるの? そのキャラデザで馬鹿力とか、やめてよぉ」
カイは、折れた槍でクーナに打ちかかった。クーナは片腕だけで、無造作に長槍を操った。カイが肩口に大ダメージを受ける。戦闘不能が表示される。
ニコルはクーナの左腕を封じるので精一杯。二度、三度と、ラフが攻撃する。
ラフの攻撃は、大剣に体重を乗せて繰り出される。一撃一撃が重い。それなのに、クーナには余裕がある。右腕だけで長槍を繰り出して、ラフの攻撃を受け流す。
「ひっでーな、このバトル。お姫さまが入れねえ上に、このウナギ、強すぎんだろ」
「ここにヒナの補助魔法が入ってたら、ヤバかったね。何か攻略法はあると思うんだけど」
「動きは速いわ、皮膚はぬめるわ、厄介だな」
「一般論で言えば、ウナギは目打ちしてさばくんだけど。そうそう、軍手が必須だね」
ラフとニコルには、クーナの姿は、やっぱりウナギにしか見えないんだ。
ヒナの悲痛な叫びが洞穴に響き渡る。
「やめて、やめてくださいっ!」
クーナは、ニコルのツタに囚われたヒナを見た。にっこりする。青い肌をした、キレイな男の姿で。
「案ずるな、ヒナ。ふさわしい結末が用意されているから」
ラフがクーナから間合いをとった。
「気取ったセリフ吐いてんじゃねえよ。ウナギの化け物のくせして」
ニコルが口を挟む。
「あのねー、ラフ。南太平洋の伝説や神話では、ウナギ、よく出てくるんだよ。ウミヘビとかヘビで語られることもあるけど、ヘビがいない島ではウナギのほうが一般的みたいで」
「だあぁっ、もう! 今はそんな豆知識、どーでもいいだろ! ってか、さっさと片付けねえと、タイムオーバーになるぜ」
「そういえばそうかも。今日はボス戦まで行くつもりなかったのに、カイの暴走に引きずられちゃったから、四時間制限のタイムリミットが近いんだよね」
ラフが、だらりと両腕を垂らした。
「じゃ、まあ、仕方ねえか。さっさと終わらすには、これがいちばんだよな」
アタシはハッとする。
「待って!」
「どうして?」
「使ってほしくない」
「しゃーないだろ? お姫さまはそこから動けないんだし」
ラフの黒髪がザワリと波打った。ブーツの足下から不穏な風が湧き立つ。
ミシリ。
一瞬、ステージそのものが軋んだ。稲光が走ったように見えた。
画像の乱れ? 胸騒ぎがする。
「なによ、今のは?」
ラフがざらついた声で答えた。
「オレの存在がフィールドのCGに干渉シたンだ。バグだかラさぁ……オレのスキル。呪いって、本当ハこノ世界で承認サレチゃイケネェんだヨ」
ラフは目を閉じた。
ミシリ。
ステージのCGが再び軋んだ。バトルのBGMが流れを止めた。クーナやヒナやカイが数秒、フリーズする。
これって、本格的にヤバいんじゃないの?
ラフが身じろぎする。稲妻みたいな白い光が無数に走る。ザラザラとした雑音が聞こえる。AIキャラたちの動きが飛び飛びになる。