きみと駆けるアイディールワールド―赤呪の章、セーブポイントから―

□農神《ロノ》の星

 アタシたちは雪山を目指して旅をスタートした。
 西の海岸に面したフアフアの村から、緑豊かな森と草原の坂を登っていく。やがてフィールドは、荒野の広がる中央台地に切り替わる。
 出現するモンスターも地形に応じて変わる。森では、色鮮やかな怪鳥や巨大な虫、食人植物。草原には、タカやトカゲ。荒野では、おなじみのモオキハが厄介この上ない。
 北に向けて、登山路に入る。高度が上がるにつれて、気温が下がった。生きているモンスターの姿が少なくなった。悪霊系のモンスターがうじゃうじゃ出始めた。
 一層目の雲に突っ込む。視界が悪い。まとわりつく霧雨は体を冷やして敏捷性を奪う。そこを悪霊系のモンスターが襲ってくる。
 ニコルは普段から魔術師のローブで暑さ寒さに強いけど、アタシとラフは身軽な装備で動き回る戦術だ。
「空気遮断系のジュエル、山ほどゲットしといてよかったぜ」
 ラフが言うとおり、重たい防寒具を装備せずにすんでるから、バトルで苦労しない。
「でも、アンタ、ますますガラが悪く見える」
「しゃーねえだろ」
 嘘よ。
 尖ったデザインのピアス、すごく似合ってる。チョーカーもブレスレットも。呪いの紋様のせいもあって、迫力あるけど。
 一層目の雲を抜けてホッとしたのも束の間、二層目に突っ込んだ。氷のつぶてがアタシたちを襲う。みるみるうちに髪やまつげが凍った。
「お姫さまもラフも、ちょっとストップして。このままじゃ、じわじわヘルスポイントが削られちゃう」
 ニコルが二重三重に防御魔法をかけて、寒さを防いだ。凍傷を警告する表示が消えた。敏捷性のステータスも元に戻る。
 再び歩き出そうとしたら、マップを開いたニコルが汗のマークをポップアップさせた。
「磁場が狂ってるみたい。磁石がぐるぐる回って、方角がわからない」
「マジか? 楽しいハイキングとはいかねえな」
「とりあえず斜面を登っていけば、山頂に着くでしょ」
「足下に崖が落ち込んでる可能性もあるわけだけどね」
「やべえな。誰が先頭を行く?」
「便利屋ニコル、アンタがなんとかしなさいよ」
 ニコルは小首をかしげて、ちょっとの間、考え込んだ。それから緑色の目をきらめかせると、ローブのポケットから一枚の葉っぱを取り出した。もふもふした柔毛がびっしり生えた葉っぱだ。
「高山植物だよ。ぬいぐるみっぽいでしょ」
 ニコルが杖を一振りすると、もふもふの葉っぱは姿を変えた。得意の使役魔法を使ったみたい。
 みるみるうちに、長身のラフよりも大きなずんぐりむっくりのシルエットが現れた。緑色のテディベアだ。ニコルは、もふもふ緑のテディベアによじ登った。
「この子なら、生まれ育ったこの山のことをよく知ってるよ。安全な道で雲の上へ出るように命令した」
「グッジョブよ」
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