女子力高めなはずなのに
コンコンッと扉を叩く音。

「お前の親父、帰ったぞ。……大丈夫か?」

扉の外から井川さんの声が聞こえる……。

のろのろと立ち上がって、玄関の鍵を開けた。

ゆっくり扉を開けると、そこには月明かりに照らされた井川さんが立っていた。

井川さんを見上げたら、ほっとして心が温かくなったような、胸が痛いような、よくわからない感情に襲われて、また涙があふれてきた。

何か言いたいけど、嗚咽が邪魔をして言葉にならない。

「……ふえっ、ひっ、……えっ」

「おい……、全然大丈夫じゃないじゃん」

井川さんの心配そうな表情が胸に刺さって、その場にヘナッと座り込んだ。

感情が抑えられなくて、そのまま泣くことしかできない。

「大丈夫、もう大丈夫だから」

井川さんの優しい声。

大きな手が私の頭をゆっくり撫でている。

そんなことされたら、そんなこと言われたら、なんだかすごく苦しい。

「もう泣くなよ。それに、そんな所に座り込んだら冷えるぞ」

そう言われても、全然涙が止まらない。
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