女子力高めなはずなのに
口元に手を当てて顔を上げたら、遠くにコートを持った黒縁眼鏡のねずみ色が滲んで見えて、思わず目を見開いた。

井川さん……!

目が合ったかもしれない。

でも、もうどうしたらいいのかわからなくて、何も考えられないまま、バッとその場から走って逃げた。

真っ暗な道を走って走って。

耳を切るような冷たい風に耐えて走り続けていたら、いつの間にか川沿いの遊歩道まで来ていた。

息が切れて苦しくて、手すりにしがみ付く。

鉄の手すりは凍っているみたいに冷たくて手が痺れそうだったけど、そんなの全然気にならなかった。

自分の吐く息がやけに白く見える。

ふわっと白い息が風に流されるのを見ながら、これまでのことを思い出した。

そうだよ……。
最初から変だった。

あのタイミングでバケツをひっくり返すなんてありえない。

あの時からもう既に始まっていたんだ。

それなのに私、全然気がつかなかった。
本当にバカ。
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