女子力高めなはずなのに
うつむいたら、そっと井川さんが私の手を握った。

お兄ちゃんの目が鋭く光る。
井川さん……、睨まれてますよ?

でも、握られたその手から「一緒にいるから大丈夫」って言われている気がした。

だから、思い切って、勇気を振り絞って言葉を発した。

「お父さん!」

お父さんは身じろぎもせず、何も答えなかったけど、私はそのまま続けた。

「この間のお金、……返して」

「ん……、今ない」

お父さんがつぶやくように言うと、お兄ちゃんが口を挟んだ。

「嘘つくなよ親父。あるだろ?返してやれよ」

お父さんはぐっと機嫌が悪い顔になった。

怖い……。

その表情は子どもの頃の記憶そのままで、一瞬で気持ちが子どもに戻って、やっぱりひるんでしまう。

私の怯えに気がついたのか、井川さんが手を強く握った。

……。

大丈夫。

井川さんが私の背中を支えてくれている。

そう思ったら少し涙が出そうになったけど、がんばって我慢した。

お父さんはノロノロとテレビの下の引き出しを開けて財布を出すと、一万円札を取り出して私に「んっ」っと差し出してきたから、恐る恐るそのお札を受け取った。

あとは、嫌なことを嫌って言うんだっけ?

もう少しだ。
がんばれ!私!
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