女子力高めなはずなのに
ゴクッと唾を飲み込んで、息をついた。

「お父さん!」

「んー?」

もっと機嫌が悪い顔……。

怖い。

またひるむ私。

そして手をギュギュっと握る井川さん。

なんか同じことの繰り返し……。

もう少しなんだから!がんばれ!

そう思って自分を奮い立たせた。

「もう、あんなことしないでほしいの……」

「あ?」

「……もう、殴ったりしないでほしいの」

「……」

「もう、酔ってうちに来てお金を取ったりしないで!もう私に怒鳴らないで!もう二度と殴らないで!」

一気に言ったら、我慢していた涙があふれ出てきた。

「……」

お父さんは苦々しい表情になって、何も言わずめんどくさそうに頭をボリボリかいて、ごろっと横になると布団をかぶってしまった。

「親父、逃げんなよ」

お兄ちゃんがそう言って揺すったけど、お父さんは返事をしなかった。

「ふて腐れたな。さくら、気にしなくていいぞ。こんな甘ったれは放っておけ」

「……うん」

お父さんはふて寝してしまったし、お兄ちゃんにここにいても仕方がないからもう帰んな、と言われて仕切りのカーテンを閉めて病室の外に出た。

「がんばったね」

廊下に出たら、頭の上から井川さんの声が聞こえてきた。

その声はすごく優しくて、褒められてるみたいで、気持ちがあふれてまた涙が出てきたから、そのままピタッと抱きついた。
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