女子力高めなはずなのに
思わず泣き声が出てしまう。

「うぅー……」

「うん、がんばった、がんばった」

抱き締められて頭を撫でられたら、甘やかされてる感じが心地良くて、ここが薄暗い病院の廊下だなんてすっかり忘れてしばらく泣いた。

私が泣き止むまで、井川さんはそのままずっと抱き締めていてくれた。

「これからはもっと、普通に言えるようになるといいんだけどな」

泣き止んだ私に井川さんはそう言った。

「うん、……そうだね」

でも、一歩は踏み出せたと思う。

いつも怯えてしまって、何一つできなかったお父さんに対して、言いたいことを言ったんだもの。

少しは成長できたかな?

「ずっと怯えてるなんて面白くないし、ちゃんと向き合って言いたいことを言えたら、いつかどちらかが死んだ時、後悔しないと思うんだ」と井川さんは言った。

その言葉を言った井川さんは、まるで自分に向かって言っているような目をしていた。
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