キャッチ・ミー ~私のハートをつかまえて~
やっぱりこの人・・・怖くない。
ううん、ガッシリした体格な上に、強面な顔してるから、やっぱり怖い雰囲気漂わせているんだけど、少したれ気味な切れ長の目を細めて笑った顔は、すごく・・・優しく見える。
私の胸がドキッと高鳴るくらいに。
見てはいけないものを見てしまったかのように私は俯くと、自分を守るように両手を握って自分の胸あたりにあてた。
すると私の目の前にコンビニ袋が現れた。
「これ・・」
「返しに来た」
「あ・・・・・・あ。どうも」と、かろうじて私は言うと、野田さんから牛乳をコンビニ袋ごと受け取った。
あれから2週間経った今頃になって、牛乳をわざわざ返すっていうのも・・・律儀な人だ。
「遅くなってごめん。あれから仕事でずっと留守してたんだ」
「そうですか・・・」
なんか・・・野田さんには心の奥まで見透かされているような、気持ちを読まれているような気がする。
落ち着かない。
私はコンビニ袋をギュッと握って俯くと、野田さんの靴を見た。
だけど、「ノラに牛乳あげてねえよな」と聞かれて、すぐ顔を上げた。
「え?いえ。あげてません。最初あげてみたら、ノラちゃん、飲まなくて」
「ふーん。あいつ、元気か」
「さあ。ノラちゃん、ここには来てないのか、実はあれから会ってないんです。元々ノラちゃんとは週に一度くらいの割合で会ってて。二度会えれば多い方で」
「あ、そう。もしかしたら発情期かもな」
「えっ!?」
あぁ・・・そうだよね。
野田さんに言われるまで気づかなかったけど、ノラちゃんは大人の雌猫だから、妊娠して仔猫を生むことができるんだ・・・。
「ひじり?おい、聖」
「あ・・・やっぱり」
「やっぱり、なんだよ」
「名前・・私の名前・・・“ひじり”って呼ばないで」
「なんで」
「きら・・いだから」
「分かった。じゃー・・・“ひーちゃん”でいいか?」
私は、野田さんの顔をまじまじと見た。
そんな私に野田さんはニッコリ微笑むと、「いいよな?」と畳みかけるように言ってきた。
「え。あの・・・」
「よーし、決まりだ」
「え?きまってな・・・」
「俺のことも名前で呼べよ」
「いや、あのぅ・・・」
「じゃーな。おやすみ、ひーちゃん」と一方的に野田さんは言いきると、スタスタと歩いて行ってしまった。
な、なにこれ。
私は行き場をなくしたように上げかけていた右手を、引っこめるように下げたとき、野田さんがこっちを向いた。
また野田さんに心の内を見透かされたような気がして、私の右手がビクッと跳ねる。
「ドアの鍵かけろよー」
「あぁはいっ」
先生の言うことを聞く生徒みたいな返事をした私は、野田さんに言われたとおり、ドアを閉めるとすぐに鍵をかけた。
野田さんの名前を知って、私も名乗った。
でも私にとって野田さんは、相変わらず「謎の隣人」のままだし。
「隣人のよしみ」とはいえ、野田さんとそんな・・・親しくすることはない!
ありえない!!
野田さんに限らず、私は誰とも親しくならない。関わらない。
恋人なんていらないし、誰とも友だちにならない・・・ううん、なれない。
子どもが産めない私は女らしさが足りない。
そんな私なんかとつき合いたいなんて、誰も思わないはず。
私は必要最小限の、表面的な人づき合いだけしながら生きていく。
そして孤独なまま死んでいく。
流産した赤ちゃんたちのように。
ううん、ガッシリした体格な上に、強面な顔してるから、やっぱり怖い雰囲気漂わせているんだけど、少したれ気味な切れ長の目を細めて笑った顔は、すごく・・・優しく見える。
私の胸がドキッと高鳴るくらいに。
見てはいけないものを見てしまったかのように私は俯くと、自分を守るように両手を握って自分の胸あたりにあてた。
すると私の目の前にコンビニ袋が現れた。
「これ・・」
「返しに来た」
「あ・・・・・・あ。どうも」と、かろうじて私は言うと、野田さんから牛乳をコンビニ袋ごと受け取った。
あれから2週間経った今頃になって、牛乳をわざわざ返すっていうのも・・・律儀な人だ。
「遅くなってごめん。あれから仕事でずっと留守してたんだ」
「そうですか・・・」
なんか・・・野田さんには心の奥まで見透かされているような、気持ちを読まれているような気がする。
落ち着かない。
私はコンビニ袋をギュッと握って俯くと、野田さんの靴を見た。
だけど、「ノラに牛乳あげてねえよな」と聞かれて、すぐ顔を上げた。
「え?いえ。あげてません。最初あげてみたら、ノラちゃん、飲まなくて」
「ふーん。あいつ、元気か」
「さあ。ノラちゃん、ここには来てないのか、実はあれから会ってないんです。元々ノラちゃんとは週に一度くらいの割合で会ってて。二度会えれば多い方で」
「あ、そう。もしかしたら発情期かもな」
「えっ!?」
あぁ・・・そうだよね。
野田さんに言われるまで気づかなかったけど、ノラちゃんは大人の雌猫だから、妊娠して仔猫を生むことができるんだ・・・。
「ひじり?おい、聖」
「あ・・・やっぱり」
「やっぱり、なんだよ」
「名前・・私の名前・・・“ひじり”って呼ばないで」
「なんで」
「きら・・いだから」
「分かった。じゃー・・・“ひーちゃん”でいいか?」
私は、野田さんの顔をまじまじと見た。
そんな私に野田さんはニッコリ微笑むと、「いいよな?」と畳みかけるように言ってきた。
「え。あの・・・」
「よーし、決まりだ」
「え?きまってな・・・」
「俺のことも名前で呼べよ」
「いや、あのぅ・・・」
「じゃーな。おやすみ、ひーちゃん」と一方的に野田さんは言いきると、スタスタと歩いて行ってしまった。
な、なにこれ。
私は行き場をなくしたように上げかけていた右手を、引っこめるように下げたとき、野田さんがこっちを向いた。
また野田さんに心の内を見透かされたような気がして、私の右手がビクッと跳ねる。
「ドアの鍵かけろよー」
「あぁはいっ」
先生の言うことを聞く生徒みたいな返事をした私は、野田さんに言われたとおり、ドアを閉めるとすぐに鍵をかけた。
野田さんの名前を知って、私も名乗った。
でも私にとって野田さんは、相変わらず「謎の隣人」のままだし。
「隣人のよしみ」とはいえ、野田さんとそんな・・・親しくすることはない!
ありえない!!
野田さんに限らず、私は誰とも親しくならない。関わらない。
恋人なんていらないし、誰とも友だちにならない・・・ううん、なれない。
子どもが産めない私は女らしさが足りない。
そんな私なんかとつき合いたいなんて、誰も思わないはず。
私は必要最小限の、表面的な人づき合いだけしながら生きていく。
そして孤独なまま死んでいく。
流産した赤ちゃんたちのように。