キャッチ・ミー ~私のハートをつかまえて~
洗濯物は、私が畳むことにした。
もちろん全部。

野田さんに私の下着を見られたくないし、野田さんは、「ひーちゃんにならパンツ見られてもいい」って言ったし。

「ありがとなー、ひーちゃん。俺、洗濯物畳むの好きじゃねえから助かるよ」と言った野田さんだけど、だからと言って洗濯物をため込んだり、たたむのを渋って、入れっぱなしにしている乾燥機の中から、次着るものを取り出すなんて不精なことを、この人はしてないと思う。

何というか、雰囲気からそう思うし、私よりちゃんと生活してるって感じもするから。
でも、私だって、畳むのを渋ったことはないけど!

「いえ、いいんです。野田さんの分が増えたって、大したことないし。何より、野田さんは腕を怪我しているんだし、洗濯機と乾燥機を貸してくださってるんだから、これくらいのこと、させてくださ・・・あ!こっち見ちゃダメッ!」

じゃないと、今畳んでいる私のパンツ、見られちゃう!

そんなことはお見通しなのか、野田さんは「はいはい」と言いながら、また私とは反対方向を見てくれた。
でもチラッと見えた野田さんの顔は、ニンマリしていた。

「それにしても、乾燥機を実際使わせてもらったおかげで、洗濯物を干すって、どれほど手間のかかる作業なのかが、よく分かってしまいました」
「だろー?」
「特にシーツ類は、洗ってその日に乾くのは、すごく助かるし、年を取ったら、シングルサイズでも、シーツを干すのは大変だと思う」
「おまえはもう老後のこと考えてんのか」
「えっ?!いや、そのぅ・・・べつに、ふと思っただけです」とつぶやくように言った私は、なぜか笑いが込み上げてきて、気づけばクスクス笑っていた。

あれ?
私、この状況とこの場を・・・楽しんでる?

私が慌てて笑うのを止めたとき、野田さんのスマホの着信音が鳴った。

「わりい。これ出ていいか」
「あ、もちろん!どうぞ」と私は言うと、また洗濯物を畳み始めた。


「はい・・・・・・気にすんな。大したことねえから。大体、おまえのせいじゃねえだろ・・・・・・あ?別に・・・まあな・・・ナツノさんからは今朝かかってきた。明日まで休んでいいってさ・・・」と言う野田さんの話し声を聞いた私は、「あ!」と思った。

私、ここにいてもいいのかしら。
どうやら仕事のことを話してるみたいだし。
相手の声は聞こえないけど、ここにいたら、野田さんの声は聞こえるし。

でも、他に行く場所と言えば、野田さんの寝室しかないので、私は極力野田さんの声を聞かないようにしながら、洗濯物を畳むことだけ考えるようにしたのに・・・。

「・・・よう、レイちゃん・・・・・・メシ?彼女が作ってくれるからいい」
「・・・はい?」

私は洗濯物を畳んでいた手をピタッと止めて、野田さんが座っている方向を見た。

今野田さん、「彼女が作る」って、言ったよね?
その前に「メシ」とも言った。

野田さんは、私のつぶやきを知らないのか、まだ電話中だ。

でも「・・・ああ、いる・・・・・・おう。サンキュー。マサにも電話くれてありがとって言っといて・・・ハハッ。じゃ、明後日な」と言ってスマホを切った野田さんは、私の方をふり向いた。

「どーした、ひーちゃん」
「えっと・・・さっき野田さん、“彼女”って・・・。ご飯作るの、私だから、その・・・」

私は手に持っていた野田さんのグレーのタオルを、ギュウっと握りしめながら言うと、恥ずかしくて俯いた。

「ああ。おまえ、女だから“彼女”だろ」
「え?あ・・・ああぁ、そう、ですよねっ。もう私ったら・・・ハハハッ」

そうよ。
野田さんは、「“俺の”彼女」とは言ってないじゃないの!
もう私ったら、勘違い激しすぎ!

私はどうにか笑ってその場をごまかすと、手に持っていたタオルを畳み始めた。


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