キャッチ・ミー ~私のハートをつかまえて~
「聖(ひじり)」
「やっ。もう、いや!」
温かい威圧感を感じた次の瞬間には、野田さんから両肘を掴まれていた。
痛くはないけど、そうされたことで、嫌でも野田さんが近くにいることを意識してしまった私は、逆に目を開けて、おとなしく野田さんの顔を見た。
「自分に女らしさがあるとかねえとか決めるのは他人じゃねえ。自分自身で決めるもんだ。決めてんのはおまえ自身だ。他人の意見を鵜呑みにして受け入れてんのは、おまえだろ?」
「う・・・・・・」
・・・野田さんの言うとおりだ。
私は両目を伏せると、コクンと頷いて肯定した。
「人っていうのは、ないものねだりをしたがるもんだ。おまえが妊婦を見ていいなーと思うように、おまえを見て、子どもがいなくていいなーと思う奴がいるようにな」
「は。なる・・・ほど」と私がつぶやくと、野田さんはニッコリ笑って、座っていたソファに戻った。
「おまえは自分の子どもを持てない人生を歩んでる。だが子どもと関わる人生を歩むことは、これからもできる」
「関わるって、どうやって・・・?」
「自分の子どもであろうが、他人の子であろうが、子どもには変わりねえ。その子たちの人生に関わることで、育てるんだよ」
「育てる・・・?」
「養子をとれと言ってんじゃねえが・・・とりたきゃとればいい」
「それは、分かってる・・・」
でも、独身でアルバイトの身である私じゃ、養子を迎え入れることは無理だと思う・・・。
「子どもが好きなら、子どもに関わることをすりゃいいってことだ。幼稚園の先生だってそうだろ?」
「あ・・・あ、なるほど」
「子どもってのは、両親だけで育てられるもんじゃねえ。まして一人で育てるもんでもねえ。メインは親かもしんねえが、それだけじゃなくて。俺が言いたいのは、ベッドや食いもんを与えることだけが、“育てる”ことじゃあねえってことだ。祖父母といった家族や、近所の人たちみんなで育てるもんだ。そうやっていろんな人と関わることで、人は育っていく。子どもも大人も、互いにな」
「それ・・・私、分かってるようで、分かってなかった、気がする・・・」
私は、目が覚めたような感覚で、改めて野田さんを見た。
今この瞬間も、私は野田さんと関わることで、育てられてる。
そんな気がした。
「人生ってのは、おまえが思ってる以上に、可能性と選択肢があるもんだ。それを見つけて選ぶのは、他ならないおまえ自身だ」
「・・・ぅん」
「そうやって自分で自分の人生を選んで生きながら、人は自信を得ていく。だが、自信は誰かに与えられるもんじゃねえ。人と関わることで育つ自信もあるが、基本的に自信ってのは、自分で持つもんだ」
と言いきった野田さんは、確かに自分に自信を持ってると思う。
「俺は他人の意見を受け入れずに全部聞き流せと言ってんじゃねえよ。自分が持ってる自信を元に、他人の意見をどこまで受け入れるかを、自分で決めていけと言いたいんだ」
「ん・・・はい」
「全部他人任せの人生を送ることなんざ、生きてる限り、誰にもできねえ。自分の人生の舵は自分でとれとよく言うだろ?」
「・・・ぅん」
不思議。
野田さんの声と言葉を聞いただけで、体の内側から力が湧いてきたような気がする。
生きていく力が。
「で、ひーちゃん」
「はい」
「おまえは今から何をしたい」
「うんっと・・・まずはこのカフェオレを飲んで、おいしそうなスイートポテトを食べたいです!」と私が言うと、野田さんはおなかをかかえて爆笑した。
「うぅ・・・。確かに、野田さんが今言ったことと私の答えは、ずれてると思うんだけど、おなかすいて・・・」
「いや。ずれてねえよ。それに、俺もこれ、食いてえし」
というわけで、おいしいスイートポテトをひとつ食べて、冷めたカフェオレを飲み干した私は、野田さんと一緒に、再び洗濯機を買いに行った。
「やっ。もう、いや!」
温かい威圧感を感じた次の瞬間には、野田さんから両肘を掴まれていた。
痛くはないけど、そうされたことで、嫌でも野田さんが近くにいることを意識してしまった私は、逆に目を開けて、おとなしく野田さんの顔を見た。
「自分に女らしさがあるとかねえとか決めるのは他人じゃねえ。自分自身で決めるもんだ。決めてんのはおまえ自身だ。他人の意見を鵜呑みにして受け入れてんのは、おまえだろ?」
「う・・・・・・」
・・・野田さんの言うとおりだ。
私は両目を伏せると、コクンと頷いて肯定した。
「人っていうのは、ないものねだりをしたがるもんだ。おまえが妊婦を見ていいなーと思うように、おまえを見て、子どもがいなくていいなーと思う奴がいるようにな」
「は。なる・・・ほど」と私がつぶやくと、野田さんはニッコリ笑って、座っていたソファに戻った。
「おまえは自分の子どもを持てない人生を歩んでる。だが子どもと関わる人生を歩むことは、これからもできる」
「関わるって、どうやって・・・?」
「自分の子どもであろうが、他人の子であろうが、子どもには変わりねえ。その子たちの人生に関わることで、育てるんだよ」
「育てる・・・?」
「養子をとれと言ってんじゃねえが・・・とりたきゃとればいい」
「それは、分かってる・・・」
でも、独身でアルバイトの身である私じゃ、養子を迎え入れることは無理だと思う・・・。
「子どもが好きなら、子どもに関わることをすりゃいいってことだ。幼稚園の先生だってそうだろ?」
「あ・・・あ、なるほど」
「子どもってのは、両親だけで育てられるもんじゃねえ。まして一人で育てるもんでもねえ。メインは親かもしんねえが、それだけじゃなくて。俺が言いたいのは、ベッドや食いもんを与えることだけが、“育てる”ことじゃあねえってことだ。祖父母といった家族や、近所の人たちみんなで育てるもんだ。そうやっていろんな人と関わることで、人は育っていく。子どもも大人も、互いにな」
「それ・・・私、分かってるようで、分かってなかった、気がする・・・」
私は、目が覚めたような感覚で、改めて野田さんを見た。
今この瞬間も、私は野田さんと関わることで、育てられてる。
そんな気がした。
「人生ってのは、おまえが思ってる以上に、可能性と選択肢があるもんだ。それを見つけて選ぶのは、他ならないおまえ自身だ」
「・・・ぅん」
「そうやって自分で自分の人生を選んで生きながら、人は自信を得ていく。だが、自信は誰かに与えられるもんじゃねえ。人と関わることで育つ自信もあるが、基本的に自信ってのは、自分で持つもんだ」
と言いきった野田さんは、確かに自分に自信を持ってると思う。
「俺は他人の意見を受け入れずに全部聞き流せと言ってんじゃねえよ。自分が持ってる自信を元に、他人の意見をどこまで受け入れるかを、自分で決めていけと言いたいんだ」
「ん・・・はい」
「全部他人任せの人生を送ることなんざ、生きてる限り、誰にもできねえ。自分の人生の舵は自分でとれとよく言うだろ?」
「・・・ぅん」
不思議。
野田さんの声と言葉を聞いただけで、体の内側から力が湧いてきたような気がする。
生きていく力が。
「で、ひーちゃん」
「はい」
「おまえは今から何をしたい」
「うんっと・・・まずはこのカフェオレを飲んで、おいしそうなスイートポテトを食べたいです!」と私が言うと、野田さんはおなかをかかえて爆笑した。
「うぅ・・・。確かに、野田さんが今言ったことと私の答えは、ずれてると思うんだけど、おなかすいて・・・」
「いや。ずれてねえよ。それに、俺もこれ、食いてえし」
というわけで、おいしいスイートポテトをひとつ食べて、冷めたカフェオレを飲み干した私は、野田さんと一緒に、再び洗濯機を買いに行った。