キャッチ・ミー ~私のハートをつかまえて~
「施設、ですか」
「ああ。俺の上司が運営してるんだ」

父親が、又は母親が罪を犯したため、離婚をするケースは珍しいことではない。
そして親のどちらかが罪を犯したたために、もう片方の親は育児を放棄することもままある。
または両親が罪を犯したために、誰も引き取り手がいない子どもだって存在する。
そういった子たちを、俺の上司であるれんじさんとなつのさん夫妻は、施設で育てているというわけだ。

「俺は毎年クリスマスプレゼントをあげたり、仕事がなければパーティーにも参加してる」
「そうですか。はい。私、マフラー作ります。けど、いくつ作ったら・・・」
「そうだなー、6歳から10歳までの子にあげたいから・・・8つ。女6に男2な」と俺が説明すると、聖はウンウン頷いた。

「分かりました。それくらいの数だったら、今から作れば・・・24日まででいいんですよね?」
「パーティーは24日の午後だから、それまでに間に合えばいいよ」
「大丈夫です」
「毛糸は俺が用意する」
「私が持ってる分も、使っていいですか?」
「そこんとこはおまえに任せる」


以来、マフラーの進捗具合を見るという新たな口実を設けた俺は、時々だが、堂々と聖んちへ行った。
俺が行くたびに、聖は必ず一つはマフラーを完成させている。
根つめてないか、急かしてないかと気になってたが、「これは男の子用です」と言いながら編みかけのマフラーを見せてくれる聖は、とても活き活きしている。

あぁやべえ。
聖がすげー可愛くて、俺、もう・・・。

聖に触れたいという衝動を抑えることができなかった俺は、聖の髪に触れた。
その途端、聖はハッと息を呑むと、体がビクッと跳ねるくらい驚いた。

「えっ!?な・・・」
「なんかついてる」

・・・ってのは、ベタな嘘だが。

俺が「動くな」と言うと、聖は大人しくそこに座ったままでいてくれたが、緊張してるのか、体が震え気味だ。
そしてすぐそばにいる俺を見る上目づかいの目は、怯えている。

聖は今、自分が女であることを痛い程意識しているようだが、それ以前から女だということを無意識に感じていることには、まだ気づいてない。
例えば聖は、仕事柄、鍛え上げてる俺の体に見惚れてる時があることを、俺はちゃーんと知っている。
自分が女であることを意識している証拠だ。

「あ、あの。のださ・・・まだ?」
「かずと」
「・・・えっ?」
「俺の名前。和人って言ったろ?」と俺は言いながら、もう少しだけ聖に近づいた。

まだ聖の髪を撫でながら。

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