キャッチ・ミー ~私のハートをつかまえて~
「や。のださん、近い・・・ちかすぎ!」と聖は言うと、両手で俺の胸板をドンと押したが、俺にとっては非力なため、後ずさることはなかった。

だが、その場に留まった俺は、まだ俺の胸板に置かれたままの聖の両手に、自分の手を重ねた。
聖の目が、ますます見開かれる。

「俺が怖いか」と聞くと、聖は首をふって即座に否定した。
それは本心なんだろうが、体はまだ震えている。
俺のことを怖がっちゃいねえが、怯えてるようだ。
これ以上進まないほうがいいか・・・だがもう少し押してみるのもいいかもしれない。

俺は聖の手を掴んだまま、自分の方に引き寄せた。

「やっ・・・ん・・・」
「・・・それでいい」

自分が女だということに、罪悪感じる必要はない。
自分が女であることを、否定する必要はないんだ。
という思いを込めて、俺はしばらくの間聖の唇を貪り、堪能した。

最初はガチガチに固まっていた聖だったが、徐々に体を俺に委ねてきたので、掴んでいた手を離すと、俺のシャツを支えにするようにギュッと握った。
それから両手を俺の体に這わせながら少しずつ上げて、俺の首の後ろで手を組んだ。

あぁちくしょう。聖が煽ってきた。

「んん・・・」
「聖、口開けろ」と俺が言うと、聖は従順に口を開けて俺の舌を迎え入れてくれた。

まだ聖の体は震えているが、どうやら怯えからではなく、俺とキスしてることに感じているから震えているようだ。

マジやべえな。これ以上続けると、先まで行っちまう。
俺は聖と舌を2回絡ませると、名残惜しく唇を離した。
そのまま聖は、俺の胸板に頬を押しつけている。
恥ずかしがってる顔を、俺に見られたくないようだ。

ったく。不器用で可愛いやつだと思いながら、俺は聖の頭をよしよしと撫でた。

「髪切るのはあと2ヶ月くらい待て」
「・・・あした、切る」と聖がつぶやいたので、俺はブッとふき出した。

「あ?なんだよおまえ。実はへそ曲がりか?」と俺が聞くと、聖は軽く顔を横にふった。

「次会う時髪切ってたら、またキスしてやる」
「えぇっ!!じゃあ切らない」
「やっぱおまえはへそ曲がりだ」

そんな聖が俺は・・・好きだ。






施設のパーティーへ行くかと聖を誘ったが、案の定、「仕事があるから」と断られた。
パーティーへ連れて行けば俺の職業がバレるかもしれねえが、そうなったらなったで、別に構わねえと腹をくくったし。
とは言え、俺はまだ聖に言ってねえが。

聖にキスしてから、あいつと2度会ったが、あれからキスはしていないし、聖も相変わらず俺のことを「野田さん」と呼ぶ。
あいつはまだ懸命にもがいている最中だから、俺が入り込む余地があまりないような感じがするし、強引に押せば押すほど、俺が近づくほど、聖は逆に離れていくような気がする。

とにかく、先へ進むことを思いとどまらせる何かが、聖にはもちろん、俺の中にもあるらしい。
そんなら別に、焦ることも急ぐこともねえか。

だから俺はパーティーへ行く前に、聖んちの郵便受けにプレゼントを入れておいた。


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