キャッチ・ミー ~私のハートをつかまえて~
「・・・以上のことから、単独犯である可能性は低い。犯人は、30代半ばから40代の男女。恐らく結婚している夫婦。5歳の子どもを連れ去って殺していることから、被害者と同い年くらいの男の子を失った経験があると思う。又は死産か流産か」
「あの子が生きていればちょうどこの子と同い年と嘆いた揚句、そうだ、この子を自分たちの子にすればいいと“勘違い”して連れ去ったってことか」
「多分な。だが男の子に抵抗されて、パパとママのところへ帰りたいと泣きつかれ、自分たちの子ではないと思い知らされ・・」
「逆ギレして殺った」と言った捜査一課の敷島に、俺は頷いて肯定した。

「もっと年齢層が高いってことはないのか?例えば60代の夫婦が孫を亡くした腹いせに殺ったとか」
「可能性はあるが・・・考えにくいな」
「その根拠は」
「被害者の母親は妊娠後期。つまり誰が見ても妊娠していると分かる。子どもを失った男女、特に女は、妊婦を見ると自分が失った子を思い出し・・・・・・・」
「どーした、野田」
「俺・・・同じような事件を以前扱った覚えがある」と俺は言うと、勢いよく椅子から立ち上がり、過去の事件ファイルがある部屋へ足早に歩いた。


「・・・これだ」

2年2ヶ月程前に、神奈川で3歳の男の子が行方不明になった事件。
捜査を始めて4日後に、隣の静岡で遺体が発見された。
当時、被害者の男の子の母親は妊娠8ヶ月で、確か男の子を失ったショックから早産したんだよな。
幸い、母子ともに無事だったが。

遺体が発見された場所が3歳の子が一人で歩いて行けるような近場じゃないこと、そして死後遺体が運ばれていることから殺人事件と断定されたが、犯人はまだ捕まっていない。

「パターンが似ている」
「連続殺人か?だがこれと今回の事件は大きな違いがあるぞ」と敷島は言うと、証拠品としてビニールに入っているメモ紙の方を、顎でしゃくった。

このメモ紙は、24日のクリスマスイブから行方不明なっていた5歳の男の子がはいていた、ズボンのポケットに入っていたものだ。
懸命の捜査もむなしく、男の子の遺体は行方不明から6日経った今朝未明、隣県の千葉で発見された。

「“神に慈悲はない”、か・・・。特定の宗教を信仰してるってことはないか?」
「・・・いや。だが神を恨んでる節はある。ひいては妊婦も憎んでいるようだしな」
「“我が子が死んだのは神様のせい”“うちの子は死んだのに、なんであんたんとこには子どもが生まれるの?”ってか。ったく。人ってーのは困ったときには神頼みするのになぁ。ヤなことがあれば、神や他人のせいにして逆恨みするのは都合良過ぎだろ」と敷島は言うと、手に持っていた証拠品をテーブルに投げるように置いた。

「この他にも過去似たような事件で、まだ犯人が捕まってないファイルがほしい」
「場所は?」
「関東一円・・・いや、念のため、中部と北陸まで調べたほうがいいだろう」


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