キャッチ・ミー ~私のハートをつかまえて~
大切な人
12月24日のクリスマスイブ。
私はいつもどおりカスタマーサービスでの仕事を終えると家に帰った。

イブだからと言って、特別なことはしない。
ごちそうも、プレゼントも、なし。
暗い夜空の元と寒い外にずっといるのは嫌。それだけ。

そんな気持ちで郵便受けを開けると、プレゼントが入っていた。

取り出す手が震えているのは、寒いせいだけじゃない。
嬉しくて、ドキドキして、気が逸って・・・。

急いで家に帰ってすぐにプレゼントを開けた私は、「わぁ」と感嘆の声を上げると、星と三日月がトップについてる、繊細なプラチナのペンダントを震える手に持って、目の前にかざした。

「きれい・・・」

プレゼントをもらったのは何年ぶりだろう。
ううん、そんなことより、施設の子どもたちも、私みたいにワクワクしながらプレゼントを開けてくれたかしら。
そして・・・喜んでくれたかな。

私は『ひーちゃんへ 和人』とだけ書かれたクリスマスカードを、嬉し涙で滲んだ目で見た。





お礼が言いたくて、思いきって隣へ行ってみたけど、野田さんはいなかった。
24日も、翌日の25日のクリスマスも、その翌日も。

だったら電話でお礼を言おうか。
でも仕事だろうし・・・夜までしてないとは思うけど、こういうお礼を電話で済ませるのは、失礼な気がする。
何といってもお隣さんだし。

野田さんは、子どもが好きだと言う私に、子どもと関わるチャンスをくれた。
子どもたちの顔は知らないけれど、みんなが喜ぶ顔を思い浮かべながら一つずつマフラーを編むことは、とても楽しかった。
生きてるって実感が湧いて・・・久しぶりに生きてていいんだと思えた。

野田さんにとっては、たいしたことじゃないと思う。
マフラーを編んでと頼んでくれたのは、たまたま。隣人のよしみで。
だからペンダントだって、野田さんには深い意味はなくて・・・マフラーを編んだお礼なのかもしれない。
クリスマスは他の人と・・・私よりもキレイでグラマーな女の人と一緒に過ごしたのかもしれない。

だから・・・今日で最後にしよう。
今夜野田さんがいなかったら、電話でお礼を言って・・・それで終わりにしよう。

と決心した私は、震える手で二度ブザーを押すと、「はい」という低い声がインターホンから聞こえた。

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