キャッチ・ミー ~私のハートをつかまえて~
あ!2回ブザーが鳴った!
ということは、野田さんだと分かってるけど、「必ずインターホンで確認しろ」と野田さんに言われてる私は、素直にその命令に従った。

「はいっ」
「俺」

「野田です」から「俺」に変わったのは、それだけ私たちの距離が縮まったってこと・・・だよね?
私は面映ゆい気持ちを顔に出さないようにしながら、玄関のドアを開けた。

「よっ」
「あ・・・けまして、おめでとうご・・・」と私が言ってる途中で、野田さんにキスされてしまった。

どうしよう!
今の私、顔が真っ赤になってて・・・とにかく、恥ずかしい!!

私は野田さんの上着をギュウっと掴みながら俯いた。

「恥ずかしいのか?」
「だ、だって・・・」
「俺たちの他には誰もいねえから。ほらひーちゃん、久しぶりに会うんだ。顔見せろ」と野田さんに言われた私は、渋々顔を上げて野田さんを見た。

う、わ。やっぱり野田さんって・・・カッコいい。
顔のつくりが整ってるカッコよさもあるけど、それ以上に人目を惹くカッコよさが、この人にはある。

ついボーっと見惚れた私に、野田さんはニコッと微笑むと、「あけましておめでとう」と言ってくれた。

「って挨拶するのは遅いけどな。ま、おまえとは今年初めて会うし」と言った野田さんに、私はコクンと頷いた。

「あれからずっと、お仕事だったの・・・?」
「ああ。今朝帰ってきた」
「そう・・・あ、野田・・和人さん、お出かけするの?」

いまだにギュウっと握りしめていた野田さんのジャケットを見て、ハタと気がついた。
うちに来るなら、隣に住んでる野田さんは、ジャケットを着てこない。

「おう。今から雄太んちに行くんだ」
「えっと、弟さん、だよね?」
「2つ下のな。おまえも一緒に行かねえか」
「あ・・の、わたし・・・」

野田さんは、別にそんな・・・私が思ってるほど重く捉えてないっていうか、気軽に誘ってくれただけだと思うんだけど、野田さんの家族に会う心の準備ができてない!
それに、「出かけよう」と言われても、急に予定が狂うのは・・・特に「予定」なんてないんだけど。
とにかく、今日は決まりきった日常を乱すような「用」を優先したい気分じゃない。

私は半ばパニック状態で、ただ顔を横にふって否定した。

「そっか。急に言われても困るよな」
「う、ううん、あの・・・今生理中だからか、出かけるよりも家にいたい気分で・・・ごめんなさい」

あぁ、なんてすごい言い訳!
でも私、生理中のときは、いつも外出する気分にならないのは本当だし。

「気にすんなって」と野田さんは言うと、私の頭を優しくあやすように、ポンポンと叩いてくれた。







あれから・・・野田さんに抱かれた年末から、10日ぶりに会ったのに。
折角の誘いを断った私は、つくづく臆病で意気地なしだと思う。

でも、こんな私を弟さん家族に紹介するなんて・・・野田さんが気の毒だし、私だって野田さんの家族はもちろん、友だちにも会う勇気がない。

そうして少しずつ、野田さんの暮らしの中に私が入っていくこと、逆に私の暮らしに野田さんが入って来ることが、怖い。
だって・・・野田さんはいつか、私にゲンナリする時が来る。
だから私は、野田さんちへ毎日行ってみることを止めたのに。
もしあの日、野田さんが私を抱いてくれなくても、野田さんの帰りを待つことは止めると決めたのに。
野田さんはいつの間にか、私の心に入り込んでいて・・・私にとって、とても大切な人になっていた。

私は、和人さんのことが好きになっていた。

だから私は、それから20日後の1月24日に、和人さんの末の弟の、真吾くんのおうちへ一緒に行くことを了承した。


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