裏腹王子は目覚めのキスを
ぎらぎらと照りつける容赦ない日差しは、緯度が多少変わったところで勢いを緩めない。
天上まで突き抜けるような青空を見上げると、まぶしさに目の奥がジンと痛んだ。
でもここは、都内と違って風が心地いい。建物や日陰に入ってしまえば、それまでの暑さが嘘のように過ごしやすかった。
世間はお盆休み。
「じゃあな」
ぽんとわたしの頭を叩くと、トーゴくんは小ぶりのキャリーバッグをごろごろ引いて隣の家へと入っていった。
そんな彼を見送って、わたしは正面に向き直る。
空港からバスに乗ってたどりついた実家は、四ヶ月前と少しも変わらない。
父、母、弟という、ごく平凡な四人家族が暮らす、ごく平凡な一軒家だ。
玄関脇で毎年紫色の小さな花を見せてくれるヒメシャガもすっかり開花シーズンを終えて、今はただ細長い葉を風に揺らすだけ。
小さく息を吸い込んで、わたしは玄関のドアレバーに手をかけた。
「ただいまぁ」
扉をくぐってキャリーバッグのハンドルをたたんでいると、奥からパタパタと足音が聞こえてくる。
「おかえりなさい」
耳に入った声に、思わず手を止めた。
顔を上げると、見覚えのない茶色のロングヘアの女の子が立っている。
黒とオレンジが混ざり合ったエスニック風のペイズリー柄が、わが家の白い壁を背景に冴えわたる。
二十歳くらいの彼女は、派手なシフォンのマキシ丈ワンピースをさらりと着こなして、ぱっちりとした目を興味深そうにわたしへ注いでいた。