裏腹王子は目覚めのキスを
「えっと……?」
誰?
人懐こそうにニコニコ笑っている彼女と向き合って立ちつくしていると、足音がもうひとつ近づいてきた。
「姉ちゃんおかえりー」
聞き覚えのある声に、こわばっていた身体が緩む。
「桜太(おうた)、ただいま」
ほっとしたのもつかの間、やってきた弟を見てわたしは目を瞠った。
「――な、なによその頭」
Tシャツにハーフパンツというラフな格好の桜太は、とぼけたように自分の髪に手をやった。
「ああ、これ? 就活終わったし。最後だから」
四ヶ月ぶりに会った弟は、真っ黒だった髪を金色に染め抜き、サッカー選手がよくやるようなソフトモヒカン風の目立つ髪型になっていた。
これまで服装も髪型もおとなしい部類で、目立つことを嫌っているようなところもあっただけに、その変貌ぶりにあっけにとられる。
茫然としていると、桜太は「そうだ」と気が付いたように隣を見た。
「こいつ俺の彼女。篠田みのり」
「え、彼女?」
唐突に紹介され、すっかり弛緩していた空気にわずかな緊張が戻る。と、
「はじめまして」
みのりちゃんはわたしの視線をまっすぐ受け止め、綿菓子のようにふんわり微笑んだ。