裏腹王子は目覚めのキスを
「海外?」
わたしが目を丸めると、彼女は困ったように微笑んだ。
「わたし、大学のゼミで東南アジアの文化と経済について勉強してたんです。その流れで外国関連のお仕事を探してたんですけど」
「みのりはすげーアジア好きだから」
桜太はわたしが持ってきたお土産の焼き菓子をひとつ手に取ると、透明の包装袋をやぶきながら自分のことのように胸を張る。
「ゼミの研修旅行ではベトナムに行ってたし、春とか夏とか長期休みには女友達と三週間かけてミャンマーからマレーシアまで個人旅行してたり」
「す……すごいね」
困り顔で微笑んでいるみのりちゃんを、わたしはまじまじと見つめた。まだ大学生でそんなに海外に行ってるなんて、と素直に感心してしまう。
遠慮する彼女に焼き菓子を手渡したついでに自分も包装袋に手をかけた。
指を動かしながらミャンマーとマレーシアってどのあたりだったかなと頭の中に世界地図を広げてみるけれど、東南アジアはひとつのページのなかにぐちゃぐちゃと国名がひしめいているだけで、位置関係が曖昧だ。
ふと思い至って、わたしは包装袋にかけていた指を止めた。
「わたし、これまで一度も外国に行ったことない……」
「俺は高校の修旅でオーストラリア行ったし」
「むむ……」
わたしの場合は外国に行く機会がなかったというのが一番大きな理由だけれど、言葉や治安なんかの不安要素を考えると、行こうと思う気持ちもなかなか湧かないのが本音だ。
「外国っていっても東南アジアは近いし、旅費も物価も安いので行きやすいんですよ」