裏腹王子は目覚めのキスを
「あー……それが、まだ……」
お母さんから手渡された麦茶のグラスを受け取ると、お父さんは鷹揚な動作で席に座る。
「なんだ、まだ決まらないのか」
お母さんがちょこまかと動き回る甲斐甲斐しい世話焼きタイプだとすれば、お父さんは細かいことにはこだわらないおおらかな放任タイプだ。
わたしや桜太の進路に関してもアドバイスはするけれど、基本的に本人任せという感じだった。
それでも、今のわたしの状態は捨て置けないらしい。
「派遣なのになぁ。仕事を選びすぎてるんじゃないのか」
「そんなこと、ないと思うんだけど……」
あまり突っ込まれたくないところを容赦なくえぐられて、わたしは空笑いを浮かべた。と、横から甲高い声が割り込んでくる。
「それより羽華子、統吾くんとの生活はどうなのよ!?」
カウンターキッチンのスツールに腰掛けたお母さんは、目を爛々と輝かせていた。
「別に、普通だよ」
きた、と思いながらそっけなく答えても、母は話題を変えさせないとばかりに畳み掛けてくる。
「やだ、普通ってことはないでしょー? あんな王子様と一緒に暮らしててぇ」
「ただの同居だし……」
「嫁入り前の娘が同居なんて感心せんなー」と、お母さんの陰でお父さんがぶつぶつ独り言を言っている。
都内で体調を崩して実家に戻ってきたわたしがまた都内で仕事を探すことに、お父さんは最初、反対をしていた。
それでも「トーゴくんが一緒なら平気よ」と母親に押し切られる形で、わたしが王子様のマンションに留まることを許してくれたのだ。