裏腹王子は目覚めのキスを

母親のみならず、弟も彼のことを慕っているし、トーゴくんはわが家で不思議なくらい信用がある。

「羽華子さん、彼氏さんと一緒に暮らしてるんですか?」
 
当然のように疑問を口にしたみのりちゃんに、桜太が答える。

「彼氏じゃなくて、となりの家の幼なじみとルームシェアしてんだよ」
 
実際は家賃も払ってないからルームシェアとは言えないかもしれないけど、とわたしは心の中で付け足した。
 
職探しのためにトーゴくんの家にお世話になることが決まった時、やっぱり心苦しいからと貯金を切り崩して月々何万か支払うことを申し出たら、彼は頑として首を縦に振らなかったのだ。
 
稼ぎがないやつから金なんて取れないと言い、そのぶん、家の中のことを頼むと。

「ねえねえ、統吾くんの部屋ってどんな感じなのよ」

「え……ええと……」
 
最近ようやく人が住める空間になった、とは、彼の名誉のために言わないほうがいいかもしれない。

本当のことを言えば、テレビのスターを前にしているように目をきらきら輝かせているお母さんの夢まで奪うことになる。

「統吾くんてどんなパジャマ着て寝るのかしら。きゃー妄想が止まらないわー!」
 
両手を恋する乙女のように胸の前で組んで、母は黄色い声を上げる。

こうなるともう手がつけられない。


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