裏腹王子は目覚めのキスを
「えっ」
驚いて顔を上げると、半身で振り返ったトーゴくんと目が合う。
心臓が跳ねあがって――
次の瞬間、わたしはキャリーバッグもろとも引っ張られ、つんのめるようにして足を踏み出した。
「とろとろしてんじゃねーよ、このバカ子が」
「な……」
引きずられながら、意識は否応なしに繋がった手に集中する。
ほんの少しひんやりしたその大きな手から、徐々にぬくもりが流れ込んでくる。
「わ……羽華子だってば……」
すたすたと前を行く背中に力なく反論して、わたしは視線を落とした。
アスファルトを滑るキャスターの音に混じって、自分の鼓動が聞こえる。
なんだか最近、トーゴくんはやたらと強引だ。
健太郎くんとの旅行を強固に反対されて、強引に地元に戻ってきたかと思えば、また強引に都内へと連れていかれる。
もちろん、飛行機の往復チケットで、日程はあらかじめ決まっていたのだけれど。
それでも、トーゴくんのわたしに対する態度は、どこかしら強硬な気がする。
なんなの、もう。
前を歩く広い背中に悪態をつきながらも、胸は高鳴っていて、わたしはひどく混乱した。
――トーゴさん。羽華子さんのこと、好きっぽかったですね。
みのりちゃんの言葉が思い出されて、体温が急激に上がっていく。
なんなの、本当に、もう……。