裏腹王子は目覚めのキスを
アスファルトは熱を吸収する。
昼間の傍若無人な太陽光を可能な限り吸い込んで、限界に達すると、今度は熱をあたりへ放出し始める。
そのせいでじりじりとした蒸し暑さは、日が落ちたあとも夜中まで続く。
仕事帰りのサラリーマンやОLが行き交うオフィス通りを歩いて、待ち合わせのカフェへと入った。
九月に入り、真夏の暑さは幾分和らいだものの、地元に比べれば気温は格段に高い。というより、暑さの質が違う。
エアコンの効いた店内でほっと息をつきアイスティーを飲んでいると、入り口をくぐる彼の姿が見えた。
「健太郎くん」
アイスコーヒーを持った彼がわたしに気づき、近づいてくる。ずんぐりとした体型でのしのしと歩を運ぶ様子は、まるで直立した小熊みたいだ。
健太郎くんはいつも身体より大きめのスーツを着ている。
既製品だと自分に合うサイズがないのか、だぼっと生地が余っている様子は、見ていて少し野暮ったい。
彼自身、あまり外見にこだわらないタイプだ。
前に付き合っているときにはまったく気にならなかったけれど、身だしなみに余念のないトーゴくんを間近に見てきたせいで、わたしもスーツの着こなしに目が行くようになったのかもしれない。
「ふう、今日は蒸すね」
健太郎くんは席に着くと、ストローでアイスコーヒーを一気に半分ほど吸い込んだ。