裏腹王子は目覚めのキスを
すごく寂しいけど、胸が絞られるように痛むけど、わたしはトーゴくんに幸せになってもらいたい。
これまで自分から手放してしまった幸せを、今度はちゃんと掴み取ってほしい。
桜太の言う通りだ。
わたしはいつまでも、王子様に甘えていてはいけない。
そのためにも、今回のわたしの結婚話は、いい機会なのかもしれない。
ソファに沈みながら、わたしは携帯でパスポート取得の手続きについてを調べた。
パスポートセンターに問い合わせをしたほうがいいみたいだけれど、ひとまず旅行一ヶ月前でもなんとか間に合いそうでほっとする。
それからビンタン島についても検索した。
画面に展開される地図を見てなるほど、とうなずく。
大小の島が点在するインドネシアの中でも、ビンタン島はかなり小さい。インドネシアの西方に位置していて、マレーシアやシンガポールにも近かった。
「旅行……かぁ」
健太郎くんの顔を思い浮かべて、ソファにごろりと横になる。
――僕と結婚しなよ。
――羽華子にとって、それが一番いいと思って。
彼の言葉は、いつも真実だ。
仕事を見つけることもできないわたしを、好んでもらってくれる人なんて、健太郎くんのほかにはもういないかもしれない。
そう思うのに、気持ちが盛り上がらないのはなぜだろう。