裏腹王子は目覚めのキスを
わたしのしぼんだ声は、肉と野菜を炒める音にかき消される。
今晩のメインは冷蔵庫のあまりものを使った中華風あんかけ炒めだ。
換気扇とフライパンの音から逃れるようにキッチンを出たトーゴくんは、シャツを脱ぎ捨て、下着のTシャツとボクサーパンツという格好でダイニングテーブルにつく。
これでも裸でうろつきまわっていた頃を考えれば、だいぶわたしの――つまりは他人の目を意識するようになったと思う。
あんかけ炒めとごはん、きのこと卵のスープ、にんじんのナムルに、ささみときゅうりの和え物をテーブルに並べると、トーゴくんはいつものように「いただきます」と言って箸を持ち上げた。
「うまい」
口を動かしながら、誰にともなくつぶやく。
王子様はそうやっていつも、口の端からつい心の声がこぼれてしまったみたいに、率直な感想を言ってくれる。
自分が特別料理上手だとは思わないけれど、美味しいと言ってくれる人がいるとやっぱり嬉しいし、次も頑張って美味しいものを作らなきゃ、と前向きな気持ちになれる。
静かな幸せに浸りながら正面の席で箸を運んでいると、ふと目が合った。
「で、面接は?」
短い言葉につつかれて、頬がこわばる。
「それが……」
わたしはごはん茶碗を持ったまま静止した。