裏腹王子は目覚めのキスを
 
恥ずかしくて、なかなか言い出せない。
 
また落ちたのだと知ったら、トーゴくんはきっと呆れる。
せっかく彼が背中を押してくれたのに、自分がダメすぎて、ただただ申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
 
しばらく無言の時間が流れ、その沈黙に耐え切れず、わたしは固まっている顔の筋肉を引きつらせるようにして、唇を動かした。

「実は……また落ちちゃって」
 
トーゴくんの眉間にしわが刻まれ、わたしはびくりと肩をすくめた。
泣きたい気持ちとは裏腹に、自嘲めいた笑みを浮かべてしまう。

「ホントに、信じられないくらいダメ人間だよね……わたし」
 
それには答えず、トーゴくんは箸を止める。
それから、「それってさぁ」と何かを疑うように目を細めた。

「派遣の営業が悪いんじゃねえの」

「……え?」

「おかしいだろ、普通に考えて。派遣で三ヶ月も決まんねーって。お前の経歴に傷があるわけでもねえのに」

「いや、十分傷だよ。会社辞めて1年も引きこもってるなんて」

「そんな奴ごまんといるよ。特に派遣じゃワケアリのスタッフも多いだろ。何か理由があって派遣っつー働き方を選んでるんだろうし。まあそうじゃない奴もいっぱいいるんだろうけど」
 
強く言われて、わたしは口を結ぶ。
 
そういうもんなのかな、と心の中で首をひねっていると、

「つかさぁ、お前の彼氏のせいなんじゃねえの?」
 
低いつぶやきが、耳に引っかかった。

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