裏腹王子は目覚めのキスを

「え……どういうこと?」
 
トーゴくんは眉根を寄せ、険しい顔でわたしを見る。

「なんかおかしいだろ、その男、いろいろと。わざとお前に合わない仕事を持ってきてんじゃねえの?」

「そんな、まさか」
 
わたしは笑ってしまった。

「確かに健太郎くんは一見冷たく見えるけど、わたしのことをちゃんと考えてくれてるし……」
 
ふと今日カフェで言われた言葉を思い出した。
 
――僕と結婚しなよ。
 
それに連動して、桜太のセリフまでよみがえる。

――トーゴ兄ちゃんもそろそろ結婚したいみたい。
 
わたしは思わずトーゴくんを見た。不機嫌そうな彼の目は、ぴたりとわたしに固定されている。

「じゃあなんて言ってんだよ、その男は」

「え」
 
結婚という言葉を見透かされたような気がして、声がひっくり返る。
茶碗を落としそうになっているわたしを睨みつけ、トーゴくんは静かに問う。

「お前の仕事が決まらないこと、そいつはなんて言ってるわけ?」

「ああ、仕事……」
 
茶碗をテーブルに置き、わたしは急いで思考を切り替えた。

「ええと、三ヶ月も決まらないのはレアなケースって、言ってたかな……。でも、わたしが悪いんだから仕方ないよ」

「ほら、そういうのだよ」
 
すっと人差し指が伸ばされ、わたしの鼻先で止まった。
 
テーブルに身を乗り出し、トーゴくんは不機嫌そうな、でも熱の込もった目で、わたしを見る。

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