裏腹王子は目覚めのキスを
「お前の彼氏、絶対モラハラ野郎だぞ」
低い声に、頭がカッとなった。
「ひどい! なにそれ」
険しい表情のトーゴくんを睨みつける。静まりかえったダイニングで、視線が強くぶつかる。
「いくらトーゴくんでも、言っていいことと悪いことがあるよ!」
健太郎くんのこと、なんにも知らないくせに!
唇が震えて、なぜか涙が出そうだった。
自分にプロポーズしてくれた人を悪し様に言われて、反感を覚えたのかもしれない。
トーゴくんは眉間に皺を寄せたまま、黙ってわたしを見ている。
このまま立ち去りたい衝動を懸命に堪えて、わたしは箸を持ち直した。
「でもな、羽華」
何かを言いかけたトーゴくんの声に、わたしは耳を貸さず、目の前の料理をひたすら口に運ぶ。
咀嚼の音ですべてを退けるかのように、わざと顎を大きく動かした。
そんなわたしの態度にため息をつき、トーゴくんも食事を再開する。
ふたりでダイニングテーブルを囲んでいて会話がないのは、はじめてだった。
わたしは常に何かしらしゃべっている人間ラジオみたいなお母さんに育てられたからか、息がつまるような静けさが苦手だ。
でも、沈黙に負けてわたしから口を開くのは癪だから、ひたすら耐えた。