裏腹王子は目覚めのキスを
仕事を探そうと思っていたのに、結婚を申し込まれて、断る理由もないから旅行に出かける。
そうすることに疑問なんてなかったのに、トーゴくんはまるごとひっくり返すようなことを言った。
――なんかおかしいだろ、その男。
確かに健太郎くんには変わったところがある。
でも彼と付き合ってきた年月の中で、彼の言うことはいつも正しかった。
トーゴくんだって、嘘はつかない。それは分かってる。
だけど王子様は今日、妙に感情的だった。
「なんで……健太郎くんを悪く言うの……?」
健太郎くんを外見だけで笑う人たちみたいに、本人のことをよく知りもせずに馬鹿にしたトーゴくんが許せなくて、わたしもつい感情的な態度を取ってしまった。
結婚と旅行の話を、しようと思ってたのに。
こんな状態じゃ、何ひとつ自分の考えや状況を正確には伝えられない。
「なんなの……もう」
やっぱりわたしはダメな人間だと思った。
健太郎君とのこと、これから先のこと、考えなきゃいけないことはたくさんあるのに、ちっとも頭が働かないどころか、わたしの脳は繰り返し、トーゴくんばかりを思い出させた。