裏腹王子は目覚めのキスを
 
仕事を探そうと思っていたのに、結婚を申し込まれて、断る理由もないから旅行に出かける。

そうすることに疑問なんてなかったのに、トーゴくんはまるごとひっくり返すようなことを言った。
 

――なんかおかしいだろ、その男。
 

確かに健太郎くんには変わったところがある。
 
でも彼と付き合ってきた年月の中で、彼の言うことはいつも正しかった。
 
トーゴくんだって、嘘はつかない。それは分かってる。
だけど王子様は今日、妙に感情的だった。


「なんで……健太郎くんを悪く言うの……?」
 
健太郎くんを外見だけで笑う人たちみたいに、本人のことをよく知りもせずに馬鹿にしたトーゴくんが許せなくて、わたしもつい感情的な態度を取ってしまった。
 
結婚と旅行の話を、しようと思ってたのに。
 
こんな状態じゃ、何ひとつ自分の考えや状況を正確には伝えられない。


「なんなの……もう」
 

やっぱりわたしはダメな人間だと思った。
 

健太郎君とのこと、これから先のこと、考えなきゃいけないことはたくさんあるのに、ちっとも頭が働かないどころか、わたしの脳は繰り返し、トーゴくんばかりを思い出させた。 
 



< 195 / 286 >

この作品をシェア

pagetop