裏腹王子は目覚めのキスを
たとえそれがどんなに心優しい素敵な女性だったとしても、たとえわたしがトーゴくんにとってただの幼なじみにすぎなくても、女の人はどうしたって、自分の恋人の周囲にいる女性の存在を気にしてしまう。
同居してる女なんてもってのほかだ。
わたしは、トーゴくんに幸せになってもらいたい。
彼の迷惑になるようなことは、したくない。
だから、旅行から帰ってきたら、あのマンションを出て、地元に戻る。
そう決意したとたん、ふわりと身体が軽くなるのを感じた。
頭にずっとちらついていた、眉間に皺を寄せた不機嫌そうなトーゴくんの顔が、王子様の微笑に変わる。
旅行までの残り2週間、彼の住まいを徹底的にきれいにしようと心に決めた。
4月にはじめて訪れてから、なんだかんだと半年間もお世話になってしまった、2LDKのマンション。
まるで自分の家みたいにリラックスできたのは、トーゴくんが12年前と変わらず素のままでわたしと接してくれたからだ。
王子様には、感謝しかない。
トーゴくんのおかげで、わたしも少しは自分に自信が持てた。
トーゴくんのおかげで、この半年間は驚くほど充実した日々になった。
実家にこもっていたら味わえないままだった、色鮮やかな日々を送ることができた。
だから、幼なじみのわたしを置いてくれたことに、感謝しかない。
王子様のそばで過ごした半年間は、夢みたいに楽しい時間だった。
だけどそろそろ、目を覚まして、現実に戻らなければならない。