裏腹王子は目覚めのキスを
 
たとえそれがどんなに心優しい素敵な女性だったとしても、たとえわたしがトーゴくんにとってただの幼なじみにすぎなくても、女の人はどうしたって、自分の恋人の周囲にいる女性の存在を気にしてしまう。
 
同居してる女なんてもってのほかだ。
 

わたしは、トーゴくんに幸せになってもらいたい。
 
彼の迷惑になるようなことは、したくない。
 
だから、旅行から帰ってきたら、あのマンションを出て、地元に戻る。
 

そう決意したとたん、ふわりと身体が軽くなるのを感じた。
 
頭にずっとちらついていた、眉間に皺を寄せた不機嫌そうなトーゴくんの顔が、王子様の微笑に変わる。
 

旅行までの残り2週間、彼の住まいを徹底的にきれいにしようと心に決めた。
 
4月にはじめて訪れてから、なんだかんだと半年間もお世話になってしまった、2LDKのマンション。

まるで自分の家みたいにリラックスできたのは、トーゴくんが12年前と変わらず素のままでわたしと接してくれたからだ。
 

王子様には、感謝しかない。
 
トーゴくんのおかげで、わたしも少しは自分に自信が持てた。
 
トーゴくんのおかげで、この半年間は驚くほど充実した日々になった。
 
実家にこもっていたら味わえないままだった、色鮮やかな日々を送ることができた。 
 

だから、幼なじみのわたしを置いてくれたことに、感謝しかない。
 
王子様のそばで過ごした半年間は、夢みたいに楽しい時間だった。
 
だけどそろそろ、目を覚まして、現実に戻らなければならない。

< 204 / 286 >

この作品をシェア

pagetop