裏腹王子は目覚めのキスを
彼の視線が逸れ、緊張の糸がかすかに緩む。その瞬間を逃さず、わたしは息を吸った。
「その、実は、わたしも今週の金曜から旅行に行くことになってて」
勢いよく口にすると、トーゴくんは顔を上げる。
「旅行って、誰と?」
「その……健太郎くんと……」
ぴくりと王子様の眉が動いて、身体がこわばった。
健太郎くんの名前を聞いて、トーゴくんの不機嫌メーターが上昇していく。分かっていたのに、実際に王子様の眉が歪むのを見ると、気持ちがくじけそうになる。
それでも、きちんとすべてを話さないといけない。
「羽華……お前」
トーゴくんが何かを言う前に、わたしは言い放った。
「それで、わたし、ここを出ることにしたから」
一瞬、リビングの空気が固まった。
見ると、トーゴくんは眉をひそめたままわたしを凝視している。
「ここを出るって、どこ行くんだよ」
「実家に戻ろうと思って」
「……だって、お前、仕事は? あきらめんの?」
鋭い視線を受け止められず、わたしはうつむく。