裏腹王子は目覚めのキスを

「お前、あの男と結婚する気か?」
 
低い声で押しこめるように言われ、おそるおそるうなずく。と、

「ったく、ほんとにお前は自分の価値をわかってねえ!」
 
吐き捨てるように言って、トーゴくんは大きなため息をついた。

「あのな、羽華。よく考ろ。明らかにおかしいだろその男。結婚する気なら、なんで羽華を俺のマンションに置いとくような真似ができるんだよ。無責任じゃねえか」

「それは……悪いと思ってるけど、健太郎くんにもいろいろと事情があって」

「いや、お前が悪いと思ってる時点で変だから。そもそも男としてどうなんだよ。お前のこと大事にしてくれてるか?」
 
どこか必死な様子のトーゴくんに、わたしもつられるようにして声が大きくなる。

「健太郎くんはちゃんとわたしのこと考えてくれてるよ! 結婚だって、わたしが全然仕事を見つけられなくて困ってたから――」

「そもそも仕事が見つかんねえのはその男のせいだろ! よく考えろって! そいつ、本当にお前を想ってるか? お前の意見を聞いて、お前のことを尊重して、ちゃんとお前を受け入れてくれてるのか!?」
 
わたしは言葉を詰まらせた。

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