裏腹王子は目覚めのキスを
 
トーゴくんのアクのない顔を見ながら、健太郎くんの感情のない顔を思い出す。
 
すっと冷たいものが身体の内側を流れていった。
 
観たい映画や行きたいレストランなんていう比較的どうでもいいようなことはわたしが決めることが多かったけれど、仕事や結婚という人生を大きく左右するような事柄は、深く考えもせず健太郎くんに任せっきりだったかもしれない。
 
頼りないわたしをいつも引っ張ってくれると思っていたけれど、わたしはただ、甘えているだけ……?
 
急激に頭が回りだして黙っていると、トーゴくんはせせら笑った。

「だいたいお前ら、見た目からして全然釣り合ってねえんだよ」
 
ぐるぐると渦を巻き始めていた思考が、そのひと言で停止する。

喉の奥が熱くなった。一番触れて欲しくない部分に触れられて、感情が破裂する。

「人を見た目で判断しないで!」
 
確かに健太郎くんはトーゴくんほど服装に興味もないし、見た目にも気を遣わないタイプだけれど、王子様の素質を生まれ持ち、周りからちやほやされてきたトーゴくんが健太郎くんをバカにするのは許せない。
 
声を震わせたわたしに、トーゴくんは噛みつくように叫んだ。

「見た目で判断して何が悪い!」
 
尖った視線に貫かれて、ぐっと息を呑みこむ。

「持って生まれたものの差はあっても、服装とか髪型とかセンスは、努力でカバーできんだよ! 自分を磨こうともしてない奴に、なんの魅力がある!」

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