裏腹王子は目覚めのキスを
 
わたしは絶句した。
 
整った顔を歪め、目を怒らせて、トーゴくんは本気で怒っている。
 
いつも皮肉っぽく笑うのがせいぜいだった王子様の、剥き出しの感情に、ひるむ。

「な……なんでそんなに、健太郎くんを目の敵にするの……?」
 
喉が痙攣した。
 
胸がつぶれそうに痛むのに、その理由がよくわからない。
 
思考の回路がつながらないまま、ただ悲しくて、悔しくて、わたしは荒れ狂う心臓をなだめるように右手で胸を押さえた。

「と、トーゴくんだって、結婚考えてる人……いるんでしょ? だからわたし、ここにいちゃいけないって……邪魔したくないって、思って……」
 
首元がぎしりと軋む。誰かに気管ごと喉を掴まれて、つよく握りしめられているみたいに、苦しい。
 
こみ上げる感情を抑えるように唇を噛んでいると、長いため息が聞こえた。


「あーバカらし」 
 
それは煮えたぎっていた感情がすべて蒸発してしまったみたいな、温度のない声だった。
 
形のいい口元には、笑みすら浮かんでいる。

「もうやめだ」

「え……?」
 
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