裏腹王子は目覚めのキスを
トーゴくんの態度が急変して、わたしは置いてけぼりにされた。
わけが分からず、胸を両手で押さえたまま直立していると、彼は足を踏み出した。
迷う素振りも見せず、すたすたと壁際にいるわたしに歩み寄り、正面で立ち止まる。
呆れたような、なげやりな表情で――。
「羽華、俺、もうやめるわ」
「な、なにを……?」
その瞬間、ふっと吐息が耳元をかすめた。
「我慢すんの、やめる」
ぞくっと背筋が震えて、わたしは左手でかばうように自分の耳を覆った。
トーゴくんはわたしの傍らに手をついて、間近に見下ろしてくる。そのあまりの近さに、心拍数が跳ねあがった。
「トーゴく、ん?」
彼の表情からは笑みが消えている。
呼吸の音が聞こえそうな距離で、射抜くように見つめられ、息ができない。
リビングの空間をまるごと接着剤で固めてしまったみたいに、わたしは指も視線も微動だにできず、ただ、彼を見つめ返す。
そして王子様は、魔法の呪文を口にするように、静かにつぶやいた。